鈍石 ページ35
【時は遡り】
薄青の空に太陽がようやく顔を出した朝。私が銀と分かれると、しばらく暇を持て余すこととなった。
人気のない細い路地を抜けていくとかぶき町の門の外に出た。
かぶき町特有の危うさと風情漂う街並みを後ろにして、私は江戸の城下へ進んでいった。
(…またか。)
ふと自分の右手を握りしめると、力がうまく入らないことに気がついた。
元来脳神経に病気があった私は、旦那が生存していた頃には毎週病院へ通っていた。
(行かなきゃな…)
右手が使えないのなら左手を使えばいい。それなら大丈夫だろう。何度も繰り返した利き手の交代。もうそろそろ限界な感覚。
病院に行く金ならそれなりにある。だけどこのまま病院に行けば時間をかけて自分の体を蝕んできた病気の数々が判明し、脳神経だけで済めばいい方だ。
そればかりが億劫で病院からは自然と足が遠のいていた。
そもそも耳も聞こえないというのに脳神経なんて言っている場合ではない。耳も治らないならこのまま全身が壊れるまで待つしかない。
もうそれでいい。私はもう大量の薬を飲む生活は嫌なのだ。直嗣さんにはきっと怒られる。銀にはなんて言われるだろうか。
(嗚呼、会いたいわ、直嗣さん。)
今すぐにでもこの首を絞めてお空のあなたの元へ駆けつけて行きたい。
目には自然と涙が浮かんでいた。
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作者名:hikari | 作成日時:2017年12月22日 23時