平穏 ページ19
昨日の晩の騒がしさはやはりどこかへ行くものである。
静かな朝を迎えた俺たちは、繁華街の名残のゴミの散らばった通りを並んで歩いていた。
肌に当たる冷たい空気は呼吸を凍らせてしまう。
並の女より少しだけ背の高い彼女だが、俺の隣では小さく見えてしまう。
年上だというのにこうして見てみると年下にしか見えないのだから不思議である。
赤い口から吐き出される白い吐息は空を駆け上がっていき、やがて消える。
汽車のごとくそれは続き、寒さの滲む江戸の早朝、俺は両肩をなでるようにしてあるいた。
Aは定食屋で止まると、右手の人差し指を店の看板に指して頷いた。
俺もそれと同じくこくりと首を動かすとそれを見たAはガラガラと扉を開けた。
「いらっしゃい。」
出迎えてくれたのはまだ朝だというのに寝起きの感触が全くない年配の夫婦。
俺たちを見て、「あら、朝から定食屋なんて酔狂な新婚さんねえ。」と笑っていた。
(どうせ聞こえてねえし。)
新婚さん。その響きを独り占めすることは別に罪なことではないだろう。
俺は一つ、「まあね。」と答えてカウンター席に腰掛けた。
同じようにして隣に座るA。目の前に差してあったお品書きを広げると吟味し始めた。
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作者名:hikari | 作成日時:2017年12月22日 23時