思 ページ17
「…銀。」
Aは、はらりと落ちた着物を戻すことをせず、そのまま両手で俺の頬を優しく包んだ。
冬なのに人肌の温もりを持ったそれは俺の心を跳ねさせる。
なんて理不尽なんだ。俺はAに肉声でなにも伝えることが出来ないじゃないか。
愛してるも好きだという言葉も何一つ、この人の耳に響くことは一生ない。
目が痛くなるほどピンク色を持った部屋の中で、俺はそんなことを気にもかけずにただ目の前の女神を見つめ続けた。
そうでないと、この人はいつ消えてもおかしくないほど儚く脆かったのだ。
見つめれば見つめるほど美しく輝く瞳は、また潤み始めてたくさん流したはずの涙がまた俺の目にも浮かび始めた。
俺はこんなに泣き虫だっただろうか。
「…好きだ。」
「聞こえないわ…何を言っているのか。」
俺だけが、この声のやり取りを受け取っているんだ。
・・・
「…ん…」
気がつけば外には朝日が昇っていた。
お互い一生分の涙を流して抱きしめあった。
頭の中に残っているのはただそれだけの記憶だった。
俺は枕につけていた頭を起こすと、そのままぼーっと天井を見つめていた。
まだ再会して二日しか経っていないというのに。なんでこんなに色々な感情が爆発的に押し寄せてくるのだろう。
「…」
隣では、俺が起きたことに気づくこともないAが昏昏と眠っていた。
『銀。私はあなたが好きなんだよ。』
『答えらんねえ。』
なあ。あの時も同じようなホテルでこうして同じ布団で眠っていたんだっけな。
先に起きていたお前が、俺の上に跨ったあとに小さな声で呟いたんだ。
良くも悪くも若かった俺は、Aからの純粋で偉大な愛を受け止める覚悟が出来ていなかったんだ。決して愛されることに驕っていたわけではないんだ。
「_____なあ、A…」
「_____あの時の言葉は、もう…時効か？」
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 37人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を含むプレイリスト 
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：hikari | 作成日時：2017年12月22日 23時
