白 ページ15
ホテルのフロントは仕切りがあり店員と客はお互い顔の見えない作りになっていた。
相手が誘っきたというのに何だこの罪悪感。
そっと横に目をやるとなんの感情も見えない黒い瞳があるだけで、何を目的としてここを選んだのか計り兼ねるところだ。
部屋番号を告げられルームキーを渡されると、そこまではエレベーターで上がっていった。
お互いなにも伝えることもなく、エレベーターから部屋までは一言も交わさずに辿り着いた。
部屋に入ると、ベッドに腰掛けるA。
男にとってそういう行動は、つまりそれを許すということ。
本当に何をしたいんだ。
俺はとうとう堪えきれず、部屋のサイドテーブルに置いてあったメモとペンで言いたいことを連ねていった。
『どういうつもりなんだ。お前は昨日俺の言葉を全て捨てていった。それなのにいきなり泣いて抱きついてくるしホテルに誘い込むし、何がしたいんだよ。』
それを見せると、はっとしたような顔になったAは、持参のメモ用紙に返答を書いた。
『伝えたいことがあるの。』
それだけ見せてくると、Aはおもむろに服を脱ぎ始めた。
「は？！」
まあこういう施設に来たなら服を脱ぐことなんてまだ序の口の序の口であり、驚くことは何一つないのは明確である。
だが俺は…というより男という生き物は大切にしたい女ほどそんな簡単に求愛行為をすることなんてできないのである。
然らばAに対してそういうコトをするつもりなんてハナからない。
だがAとまることなく服を脱ぎ続ける。
着物の帯を外し、下着まで脱いでいく。
だがそれは背中辺りで脱ぐ手を止めた。
何故かほっとしている自分がいた。
手が止まったAの姿を見ると、背中には妙な傷跡が大きく残っていた。
「…」
『夫が事故で死んだことは伝えたと思いますが、私も実はその事故に巻き込まれていました。
覚えていますか？三年前の江戸でも大事故になった飲酒運転の過失事件。
その被害者が私と夫だったのです。』
三年前の事故。たしかに連日テレビで報道されていたことだけは覚えていた。
『この傷跡だけでなく、私は車の衝撃とエアバッグのせいで鼓膜が敗れました。耳が聞こえなくなったのはそれが原因なのです。』
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作者名：hikari | 作成日時：2017年12月22日 23時
