． ページ30
ジッと黙って聞いていた鯉登。
ようやく箸を置くと、机を片手でずらしてAと正面から向き合うように座り直した。
「以前にもお前は、お前の信じる正道を進め、と私に言ったな …お前は私を買い被りすぎだった あの時の私には正道はおろか何も見えてはいなかった」
ふと顔を上げると、少しばかり歳を重ねて幼さの消えた鯉登と視線が交差する。
その瞳は、Aがよく知る決意を固めた
「返せるものはある、香坂 …私とといえ…、いや、結婚してくれッ！！」
「…え？」
「ぐッ…！は、はいめっいっきょた時からわいに一目惚れしちょったッ！！おいがといえすっとしたや、そんたわいしかあらんッ！！」
「なんて？」
「キッ、キェエエエエエエエッ！！月島ァン！！」
Aは目をぱちくりさせながらも、絶対に今この状況で月島を呼ぶのは間違っていることだけは分かった。
とりあえず真っ赤な顔で何やら奇声を上げている鯉登を宥めるA。
腕だけでなく耳も腐り落ちていないのであれば、今「結婚してくれ」という言葉が聞こえたような気がする。
なおもメソメソ唇を尖らせて何か言ってはいるものの、ようやっと落ち着いてきた鯉登がぽつりぽつりと話し始める。
「お前を養っている理由が下心だと思われるのが嫌で今まで言えなかった…」
「えっと、下心じゃなかったんですか？」
「違うッ！！いや全く違うということもないが…！」
「…ぷッ、どっちですか」
吹き出して笑うAを、鯉登はポーッと呆けたような表情で見ていた。
「やっと笑ったな …お前の愛らしくて気高いところが好きだ 私と籍を入れてくれないか」
真っ直ぐ見つめられてそんなことを言われてしまえば、今度はAの方がしどろもどろになる。
「わ、私なんて… 料理もできないし、顔も焼け爛れちゃったし、片腕だって無いのに…」
「関係ない それを言うなら私だって傷モノだ」
そう言って自身の頬を指差して笑う鯉登。
男の勲章と自分の酷い銃痕は同列ではない。
それでもこの男は否定するのだろうが。
「お前がまだあの男を忘れられないでいてもいい 私が絶対にお前にあんな悲しい顔をさせないと誓う なんせ私は見ての通りイイ男だからな、案外すぐに忘れられるかもしれんぞ」
そう言いながら伸ばされた手に、Aはもう抗うことはなかった。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 142人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
久遠(プロフ) - 宇佐美の狂ってる感じが最高でした！ありがとうございます😊 (4月7日 21時) (
レス) @page43 id: d025dfcb18 (このIDを非表示/違反報告)
豆腐プリン(プロフ) - 鯉登の現代ver.と明治ver.両方見てみたいです！よろしくお願いします！ (4月7日 10時) (レス) id: b06481f634 (このIDを非表示/違反報告)
久遠(プロフ) - リクエストなんですが、宇佐美との話欲しいです🙇🏻♀️現代でも明治でも良いです！ (3月24日 22時) (レス) @page37 id: d025dfcb18 (このIDを非表示/違反報告)
豆腐プリン(プロフ) - めちゃくちゃいい話で感動しました〜😭ありがとうございます！ (3月18日 0時) (レス) @page31 id: b06481f634 (このIDを非表示/違反報告)
豆腐プリン(プロフ) - やばい！鶴見中尉との関係めっちゃ好きすぎて叫びそうです！笑 リクエストなんですがもし夢主だけ生存して鯉登オチだったらっていうと軍に入っていない少し幼い夢主と鶴見との絡みが見てみたいと思ったのですが出来ますでしょうか??お願いします！ (3月13日 23時) (レス) id: b06481f634 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：ぽなふ | 作成日時：2024年2月25日 23時
