二百五十六 ページ6
「肌着に剃刀に…、日用品ばかりか」
「だから面白くないって言ったじゃないですか」
「ん？」
鞄の中からチャリ、と金属のぶつかる音が響き、尾形は不思議そうにそれを取り出した。
Aの表情が若干強張る。
「これは？」
「…ッ」
「プッ、アッハハハハハ！百之助、それ簪だよ！」
マズいものが見つかってしまった。
いや、軍の規定に簪の持ち込み禁止なんて文言は無かったはずである。
Aはグッと眉を顰めた。
「こんなもの一体どうしたんだよ？」
「…頂いたのです 露店で私があまりにも熱心に見つめていたようで、想い人へのプレゼントにと…」
「ギャハハハハハハ！！」
渋々説明するAに、宇佐美はとうとう腹を抱えて笑い出した。
キンキンと耳に響く嫌な笑い声だ。
ふとその隣の尾形を見ると、宇佐美とは反対に無表情を崩すことなくジッと簪を見つめている。
簪の先でゆらゆらと揺れている飾りを目で追っているようだ。
「お前、その頭のどこにこんなもの刺すつもりなんだぁ？」
カッと顔が赤くなる。
最近気づいたのだ。
街に出ると年頃の女たちは皆黒髪を艶やかに伸ばし、簪や笄で結えている。
一方で自分の頭に生えているのは、耳下辺りまでしか生えていないゴワゴワとした貧相な髪。
初めは気にならなかった。
鶴見中尉になるべく女の性を隠せと命令されたから。
戦うのに髪の毛なんてさして必要ではないから。
しかしこうしてたまの休暇に外出すると、自分と町娘たちとの間にある差を恥ずかしく思う時がある。
「仕方ないなぁ 僕がコイツの使い方を教えてやるよ」
宇佐美が尾形の手から簪を抜き取ったのを見て、なんだか嫌な予感が走る。
宇佐美は簪を手に持ったままAの後ろを通り過ぎ、草村に酒瓶を隠していた初年兵の手の甲に迷いなく突き刺した。
「ぎゃあぁぁあッ！！」
「知らなかったか？百之助は目が良いんだ 今の間に違反物を隠した奴ら全員、僕らにはお見通しだぞ」
安っぽいが少女然としていて可愛らしかったコンパクトな簪は、みるみるうちに血で汚れ地面に打ち捨てられる。
Aはそっと目を伏せた。
なんだか心臓をギュッと握り潰されたような、言い表せない無念感が脳を支配していた。
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なお(プロフ) - 最後の結末はあの花を意識されてますか！？ (5月6日 11時) (
レス) @page46 id: b9f10e639b (このIDを非表示/違反報告)
ぽなふ(プロフ) - 塩トマトさん» いつも感想とてもモチベになりました！こちらこそ長く読んでくださってありがとうございました (2月26日 16時) (レス) id: 501bdc7901 (このIDを非表示/違反報告)
ぽなふ(プロフ) - べちゃべちゃだいこんおろしさん» 泣いていただけてこっちも感涙です…！完結できてよかったです (2月26日 16時) (レス) id: 501bdc7901 (このIDを非表示/違反報告)
ぽなふ(プロフ) - 豆腐プリンさん» うわ〜いつも感想とても励みになりました！ありがとうございます (2月26日 16時) (レス) id: 501bdc7901 (このIDを非表示/違反報告)
塩トマト(プロフ) - 完結おめでとうございます！ずっと素敵な文章と物語に感動と喜びと驚きとドキドキで満たされました！ありがとうございました！ (2月26日 15時) (レス) @page46 id: ce7328f6ce (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：ぽなふ | 作成日時：2024年1月23日 23時
