二百七十八 ページ28
「おが…」
「喋るな 今すぐ止血する」
俊敏な動きでAのそばまでやって来て膝をつくと、尾形は右腕の欠損部に手を伸ばす。
Aは力無く首を振ってその手を押し退けると、目を開いてこちらをジッと見下ろしている鶴見に視線を移した。
応急処置ならば自分でもできる。
二人には列車の中の状況をよく見張っててもらわなければならない。
「…ヒグマが、出ました…、この、列車に」
「なに？」
「あなたの部下も、相当数がヒグマに…」
鶴見は腰の拳銃嚢からピストルを取り出し、弾倉を装填して構えた。
その額当ての下から覗く暗い瞳からは、何を考えているか読み取ることは不可能であった。
「ヒグマだけではない …杉元たちが来るぞ」
その言葉の直後、はじめに列車の屋根に駆け上ってきたのは、二体の獣でも不死身ではない方の、つまり
Aから銃弾を浴びた後も第七師団の兵士たちに手酷くやられたのだろう、口や鼻から大量の血を噴き出しおぼつかない足取りではあるが、なおも猛烈な唸り声を発して三人の元へ突進してくる。
「鶴見中尉、その矢筒は預ける！ここは俺に任せて、アンタはそれ持って奴らから身を隠してください …このケダモノと、杉元の野郎を片付けたら俺たちもすぐに行きます」
「ああ 頼んだぞ、百之助」
ピストルを構え辺りを警戒しながらズンズンと屋根の上を前方に向かって進んでいく鶴見。
一瞬だけ目が合ったように感じたのは気のせいだろうか。
「この女の腕を食ったのはお前だな？」
尾形は小銃を構え、一発ヒグマの脳天に命中させる。
鶴見と尾形の間でどんな密約が行われていたのかは分からない。
どちらの男も秘密主義である。
しかしこの二人が組んだのなら一安心だ。
そうAの気が緩んだ瞬間、ドクンドクンと右腕から血液が流れ出ていくのを感じた。
マズイ、流石に止血をしないと。
Aが自身の外套で欠損部を押さえようとしたそのとき、チリチリと肌を焼くような殺気を感じて顔を上げた。
「…ああ、頭蓋骨が分厚いんだっけ？
「尾形さんッ…！！」
もっと恐ろしいケモノが、歯を剥き出しにして現れたのだ。
杉元佐一の銃剣は深々と尾形の脇腹に突き刺さっていた。
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なお(プロフ) - 最後の結末はあの花を意識されてますか！？ (5月6日 11時) (
レス) @page46 id: b9f10e639b (このIDを非表示/違反報告)
ぽなふ(プロフ) - 塩トマトさん» いつも感想とてもモチベになりました！こちらこそ長く読んでくださってありがとうございました (2月26日 16時) (レス) id: 501bdc7901 (このIDを非表示/違反報告)
ぽなふ(プロフ) - べちゃべちゃだいこんおろしさん» 泣いていただけてこっちも感涙です…！完結できてよかったです (2月26日 16時) (レス) id: 501bdc7901 (このIDを非表示/違反報告)
ぽなふ(プロフ) - 豆腐プリンさん» うわ〜いつも感想とても励みになりました！ありがとうございます (2月26日 16時) (レス) id: 501bdc7901 (このIDを非表示/違反報告)
塩トマト(プロフ) - 完結おめでとうございます！ずっと素敵な文章と物語に感動と喜びと驚きとドキドキで満たされました！ありがとうございました！ (2月26日 15時) (レス) @page46 id: ce7328f6ce (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：ぽなふ | 作成日時：2024年1月23日 23時
