百五十九 ページ9
「A来たッ」
ホッとしたようなチカパシとエノノカに軽く手を振って答えると、何やら毒づいているらしき盗人の男の腹を拳銃で小突く。
ロシア人の男は大人しくAに従って、犬小屋の南京錠を開錠した。
中からはピンピンした犬橇の先頭犬が飛び出してくる。
「わぁああ！やったよ！」
「俺たちで犬を取り返した！」
そう手を合わせて喜んでいる二人をやれやれと見つめているそのとき、男が素早い動きでチカパシに手を伸ばした。
いや、正確にはチカパシの手にある小銃に。
Aは言葉を発するよりも早く、構えていた拳銃の引き金を引いて男の手を撃ち抜いた。
その後すぐに両足も撃っておく。
「チカパシ！銃からは常に目を離すなッ！」
「ごめんなさい！」
「この男はここに置いていく 早く犬を繋ごう」
エノノカは犬の手綱を取ると、チカパシを乗せてあらかじめ履いていたスキー板を滑らせた。
Aもそれに乗らせてもらおうとしたそのとき、とてつもない殺気がAの背後を襲う。
先ほどの銃声で敵に気づかれたか？
すぐさま振り向くと、Aは眉を顰めた。
「杉元ニシパ？」
「いや、何か変だ… エノノカ！チカパシを連れてそのまま逃げて！！」
「ううううぅぅう…」
こちらに向かって振り下ろされた拳をすんでのところで避け、Aは戦慄する。
目の前のこの男はたしかに杉元佐一に他ならないが、しかし普段の彼とは違いすぎる。
目は血走り瞳孔が開いており、その頭からはダラダラと何やら白いものが流れ出ている。
そして何よりこの殺気だ！
「杉元！どうしたの！？スチェンカは！？」
「ふう…！ふう…！」
「杉元ッ！！」
杉元にはこちらが認識できていないのか。
頭から垂れる白い液体は、鶴見中尉の脊髄液を彷彿とさせた。
向こうの方で悲鳴がした。
振り向くとチカパシとエノノカの前に立ちはだかるクズリの姿が。
ああ、どうしてこうも間が悪いのか。
早く助けにいかなければ、二人ではクズリに太刀打ちができないというのに。
「うぁッ！？」
「ううううううッ…」
拳を防ごうと身体の前に出した腕に物凄い衝撃が走り、激痛と共に持っていた拳銃は杉元の方へと弾き飛ばされた。
マズい、頼みの綱が…。
おかしくなった杉元にこのまま殺されるなんて、本当に勘弁してくれ。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 142人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
ぽなふ(プロフ) - まるまさん» 嬉しいです〜完結まで頑張りたいです！ (11月4日 12時) (
レス) id: 501bdc7901 (このIDを非表示/違反報告)
ぽなふ(プロフ) - kuuualohaさん» ありがとうございます！またテンポ良く上げられたらと思います (11月4日 12時) (レス) @page12 id: 501bdc7901 (このIDを非表示/違反報告)
まるま - 何時も楽しく読ませてもらってます！これからも応援してます!!✨ (11月3日 22時) (レス) @page42 id: 176e021716 (このIDを非表示/違反報告)
kuuualoha(プロフ) - 更新待ってます(泣)！ (11月3日 7時) (レス) @page42 id: 8717a25739 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：ぽなふ | 作成日時：2023年10月2日 8時
