百九十四 ページ44
パタパタと外套が激しくはためく。
「やっぱり俺では駄目か… 上手くいかんもんだな」
よっぽど自分には人をたらし込む才能がないらしい。
どうも鶴見中尉のようにはいかなかった。
今も、…そして
『出来ません！…父上からの言いつけなのです ��お前だけは殺すな��と』
自分を拒絶するアシリパの青い瞳が、いつぞやの聯隊旗手姿の異母弟と重なる。
この少女も同じなのか。
「ところでよォ、前から気になってたことが一つあるんだ」
その目、その目が気に食わない。
純粋に光を映し出すその穢れなき瞳は一体何だ。
「初めて会ったとき、杉元が俺を殺そうとしたのを止めたな この金塊争奪戦で、清いままでいようとしているアシリパにずっと違和感があった …アイヌの偶像も清い必要があるのか？」
偶像として兵士たちの士気を上げる旗手に、新しい時代にアイヌを導く偶像…。
偶像、偶像、って一体何だ。
「何の話だ…？」
「やれよ、俺を殺してみろ 清い人間なんてこの世にいるはずがない」
目の前の少女は、可哀想にカタカタと弓を引く手が震えている。
そうだ、こういうときに鶴見中尉はどうしていたんだっけ。
香坂Aに初めて殺しをさせたとき、たしか鶴見は…
「道理をやろうか？お前の父親を殺したのは俺だ」
「ッ…！」
少女の目つきが変わった。
良い傾向だ。
「やれよ…、お前も出来る… Aにだって出来たんだ」
「A…？どうしてAの名前が出てくるんだ」
あのとき必死の形相で顔を合わせたこともない人間の心臓に銃剣を突き立てたAは、何よりもいじらしいと思った。
あのとき震えていた手は、今では何十何百という数の人間に向かって銃の引き金を冷酷に引いている。
あの女は
「……私は殺さない」
そうきっぱりと言い切った目の前の少女のその青い目、お前のその澄んだ目がどうしようもなく…
「お前たちのような奴らがいて良いはずがないんだ」
＿＿＿＿＿この身を灼き尽くす。
もうやめてくれ、これ以上その目で俺を見るな。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 142人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
ぽなふ(プロフ) - まるまさん» 嬉しいです〜完結まで頑張りたいです！ (11月4日 12時) (
レス) id: 501bdc7901 (このIDを非表示/違反報告)
ぽなふ(プロフ) - kuuualohaさん» ありがとうございます！またテンポ良く上げられたらと思います (11月4日 12時) (レス) @page12 id: 501bdc7901 (このIDを非表示/違反報告)
まるま - 何時も楽しく読ませてもらってます！これからも応援してます!!✨ (11月3日 22時) (レス) @page42 id: 176e021716 (このIDを非表示/違反報告)
kuuualoha(プロフ) - 更新待ってます(泣)！ (11月3日 7時) (レス) @page42 id: 8717a25739 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：ぽなふ | 作成日時：2023年10月2日 8時
