百八十八 ページ38
鶴見の言葉は温かくAの心に沁みた。
ここに居てもいいのだ、と確かに肯定してくれた。
「君は��普通になりたい��と言っていたね」
鶴見はそっとAから身体を離すと、後ろでその様子を見ていた尾形らを振り返った。
「ここにいる者たちは皆旅順で過酷な経験をした 正気を保っていられなくなるほど、たくさんのロシア兵を殺して回った しかし私は、その経験こそがこの聯隊の強さであり、固く結ばれた絆の由縁であると考えている」
過酷な戦場と殺人への後ろめたさが、この最強の部隊を結ぶ絆。
なるほど、鶴見は戦争を経験していない自分にそれを植え付けようとしたのか。
そしてその目論見は見事成功である。
Aはもう人殺しとしての自分を認め、そんな自分を唯一受け入れてくれるこの男たちの存在に依存しているのだから。
「よくやった、Aちゃん 君は我々の
「私… 普通に、なれたんですね… よかった」
この人が自分を不要だと捨てるその時が来ないように、Aは鶴見に従って人を殺し続ける。
心の奥底で鳴っている警鐘に目を背け、Aはすっかり涙の乾いた瞳で鶴見を見上げた。
ニコリと上品に微笑む顔は、今度は初めて出会った頃の紳士然とした鶴見のままであった。
そして視線を動かして尾形をチラリと見やる。
普段ほとんど表情を動かすことがない自分の教官が、少しだけ嬉しそうに微笑を浮かべていた気がした。
一瞬で元の無表情に戻ってしまったため、見間違いかもしれない。
しかしそれでも、Aは生涯このときの尾形の偽りのない微笑みを忘れないだろうと思った。
自分が人を殺めることを、こんなにも喜んでくれる人たちがいる。
その確かな実感は、香坂Aの今後の人生にも大きく影響を与える経験となった。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 142人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
ぽなふ(プロフ) - まるまさん» 嬉しいです〜完結まで頑張りたいです！ (11月4日 12時) (
レス) id: 501bdc7901 (このIDを非表示/違反報告)
ぽなふ(プロフ) - kuuualohaさん» ありがとうございます！またテンポ良く上げられたらと思います (11月4日 12時) (レス) @page12 id: 501bdc7901 (このIDを非表示/違反報告)
まるま - 何時も楽しく読ませてもらってます！これからも応援してます!!✨ (11月3日 22時) (レス) @page42 id: 176e021716 (このIDを非表示/違反報告)
kuuualoha(プロフ) - 更新待ってます(泣)！ (11月3日 7時) (レス) @page42 id: 8717a25739 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：ぽなふ | 作成日時：2023年10月2日 8時
