私が人であるのなら (ページ25)

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彼をみたのは、それが初めてだった。
　あの子が連れてきた彼の姿は、今でも覚えている。あのころのことならばきっとすべてを覚えている。

　僕の名前は、■■■■。
　そう名乗った彼の顔はとてもーーーー

　
　かすかに耳に入った小鳥の鳴き声が、彼女の意識を浮上させた。頭を抱えて、夢の内容を思い出そうとする。しかし思いだそうとする前に、声がそれを遮ってしまった。

「おもいださないほうがいい」

　振り返れば、きっと忌々しい顔がそこにはある。昨夜、薬を作ってから眠ってしまった方が良かった。きっと、朝からこんな男の声を聞くことはなかっただろうに。
　後悔が頭の中を埋め尽くす。
ーーまた、憂鬱な日が始まる。
　昨日は信じられないほど楽しかった。どれだけどんなところを巡ったってこんな感情は持てなかったのに。そう考えてしまうと、もう抜け出せなさそうだった。仕方がないから、サシャはリュックから乳鉢を取り出し、昨日買ったものをまとめて入れた袋を出した。

「んっ、げほっ」

　いつもいつもこの味には慣れない……。
　そう考えながら水筒から水を飲み込む。彼女の喉仏が大きく上下し、薬を飲み込んだのがよくわかる。
　いろいろな素材をすりつぶし、煮込み、そうして作り上げたこの薬は、信じられないほど不味い。おそらくこれ以上に不味いものはないだろうと思うほどに。しかし、薬の効果のおかげか、背後に感じていた気配は消え去ってしまったようだった。
　気分は悪かった。がんがんと頭痛がして、吐き気が止まらなかった。彼女が気絶するかのように眠りにつくまでに、そう時間はかからなかった。

(更新してなくてすいません……)
　