私が人であるのなら (ページ22)

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ずい、と二人のほうに顔を近づけたオリバンダー老人は言う。あなたの母と父が杖を買ったのが昨日のことのようだと買っていった杖のことまで事細かに話してから、痛ましいという表情でハリーの額の傷をなぞった。

「……この傷を付けたのも、わしの店で売った杖じゃ。あれは強力な杖じゃった。しかし、間違った者の手に……あの杖が世に出て、何をするか知っていればのう……」

　もともと静かだった店内がさらに静まりかえったような感覚を、ハリーは感じた。隣を見ると少女は相も変わらずフードもはずさず老人を見ていた。何故こんなに雰囲気が冷たいんだろうと、少女の横顔を見て思う。深くかぶられたフードからは唇ぐらいしか見えないのに、なんだか冷たいのだ。

「……ああ、すいません、オリバンダーさん。実は私もう杖を持っているんです。ここにはハリーの付き添いで来たんです」

　動いた唇が弧を描いて、彼女の首がかすかに傾けられた。そういえばそうだ、とハリーは思う。彼女がさっき、いやな男の子を追い払ってくれたときにも使ってくれたじゃないか。

「ほう、すこしだけ見せていただいても？」
「勿論です」

　表情が一転したオリバンダー老人に、にこやかに答える。ごそごそとマントの中に手を入れ、足についたホルダーから杖を抜き取った。
　「どうぞ」と少女が言うと、オリバンダー老人はそれを慎重に受け取り、持ち上げて数秒観察してから口を開いた。

「お嬢さん、この杖は何でできているのか、おしえていただいてもかまわないですか」

　それを聞いて、サシャはまた微笑む。

「秘密です」

　ハリーが見た横顔は、また冷たいものに感じられた。