Story112 ページ37
悟が出てきた。騒ぎから一週間ほど経った頃だった。
『これ、七海宛だ』
ぐしゃぐしゃに握りつぶされていた封筒を手渡されたのは、つい先ほど。部屋を訪れた悟は、ひどい隈を作っていた。
『ちゃんと眠っているんですか』
『はは…。七海のくせに俺の心配とか、生意気』
軽口を返すくらいの気力はあるようだったが、憔悴は隠しきれていなかった。それでも、他に何枚か持っている封筒をひらりと揺らして。
『これをあいつらにも届けたら…少し、休むよ』
『…眠れない時はホットミルクが良いですよ。ハチミツを少し垂らすのがおススメです』
『へー。レンチンで出来る?』
『……はぁ。連絡をいただければ作って持っていきます。今夜だけですからね』
思わず、そんなことを言ってしまった。それくらい、あの天上天下唯我独尊の五条悟が、弱っていたから。
「…貴女のせいで大迷惑だ」
いつまで経っても汚い字。殴り書きのように七海へ、と書いてある封筒。悟が強く握りしめすぎたのだろう、紙に穴も開いている。読めなかったらどうしてくれようかと考えながら、封を開いた。折り畳まれた便箋を広げる。
【私の世界へ。
生きろ】
「……は」
たったそれだけの、文字。よく見れば、紙が所々たわんでいる。
「…なんだ、それは」
あの五条Aが。涙をこぼしながらこれを書いたのか。
「たったこれだけの、言葉を書くだけで」
何ヵ所も見受けられる、その痕跡。
「そんなに辛い思いをしていたのか」
想像ができない。あの五条Aが泣きながらこれを書いている、姿が。
「そんなに追い詰められていたのか」
あの笑顔が、曇るほどに。
「私の方こそ、言ってやりたい」
生きろと。
「…お前は、私の世界だ」
だから生きていてほしいと。傷ついてほしくないと。笑顔でいてほしいと。そうであるのなら、自分は身をひこうとさえ、思っていたのに。
「お前も、私のことを、そんな風に思っていたのか」
文字が、滲む。
「なんで、それを言わない」
なんで、直接言わなかった。
「なんで、黙って行ってしまったんだ」
共に行くことも、歩くことも、許されないのか。
(直感した)
(二度と、彼女には会えないと)
(手紙を握りしめて、涙を流す)
(クソ、と呟いても)
(嗚咽をあげても)
(涙は止む気配がなく)
(私の隣に、Aはいない)
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灯霧(プロフ) - 森さん» 応援ありがとうございます!また七海夢書くと思うので宜しくお願い致します! (2022年2月28日 0時) (レス) id: 58548306cb (このIDを非表示/違反報告)
森 - YouTubeのはきっと、千葉茉吏衣というアイコンの人だと思います。 これ面白かったです❗応援してます‼ (2022年2月25日 0時) (レス) id: d826e852a9 (このIDを非表示/違反報告)
福寿茶寮(プロフ) - 灯霧さん» YouTubeでも似たようなコメントをみた事がありまして,もしかしてと思ったのですが,そうだったんですね…。 ありがとうございました。 (2021年12月22日 21時) (携帯から) (レス) id: 998ae028aa (このIDを非表示/違反報告)
灯霧(プロフ) - 福寿茶寮さん» 申し訳ございません!私が気づいてなかったばっかりにご不快な思いをさせてしまいました。報告し非表示にしてあります。あの人はどこの七海夢にも出没するアラシみたいなものです。今後も見つけ次第非表示にいたします。お手数をおかけいたしました…! (2021年12月22日 15時) (レス) id: 659f7a97b9 (このIDを非表示/違反報告)
福寿茶寮(プロフ) - マリイ(七海建人の嫁)さん» 変な事書くのやめて下さい。 (2021年12月22日 11時) (携帯から) (レス) id: 998ae028aa (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:灯霧 | 作成日時:2021年8月3日 16時