【飛影】それは転がり始めた石のように。part4【幽遊白書】 (ページ37)

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story182 ページ37

影縫の言動は、常軌を逸していた。桑原の足が、一歩後ろに下がる。

「な……涼さんが育った孤児院を焼いた張本人だってのか！？」
「桑原君、涼が施設育ちだと知っていたんですか？」
「まぁな…。昔、本人から聞いた。けど涼さんが行方不明になってから半年くらい経った頃に、施設が全焼しちまったんだ。施設の職員と引き取られていた子供が数人、犠牲になっちまってな。確か警察も大掛かりな捜査をしたんだが、結局放火だとは断定できなかったって聞いてる」
「つまり、事故として処理された…？」
「かどうかまでは知らねぇけどよ。…涼さんは、施設が家で院長先生や奥さん、そこにいるガキどもは家族だって話してた。それを……あのクソ野郎…！」

桑原と蔵馬の会話を耳にして、ようやく腑に落ちた。涼が肉親ではなく家族という言葉が好きだと言った理由。

「貴様ぁあああ！！！」

ぶわっと膨れ上がった霊気。それに同調するかの如く、胡蝶と花蝶から発せられる妖気も大きくなる。幽助がはっとした。

「おい、あんな力を使ってたら、涼が死ぬぞ！」
「怒りに我を忘れているんだ。……チッ」

もはや暴走とほぼ変わらないほどの霊気と妖気が、リングを包んだ。いや、リングだけではない。会場全体に、飛び火していく。前列の方にいる観客が巻き込まれた。戸愚呂チームも浦飯チームも、その渦に巻き込まれる。

「殺す！殺してやる！ずたずたに引き裂いて、アイツらの苦しみを万倍味合わせて！」
「いかんな…。お前達、下がっていろ」

悲痛な叫び声と共に、コエンマが進み出た。霊気の結界を張る。これから戦う幽助たちに、負担をかけないためだ。向かい側では、戸愚呂が左京の盾になっている。ところが飛影は、その壁の前に出た。

「おい、飛影！」
「幽助、待って。……好きにさせてやってくれ」

止めようとした幽助を、蔵馬が止める。なんで、と振り向いた幽助の目に飛び込んだのは、蔵馬の悲しそうな表情。

「心配しなくても、この妖気は飛影にとって害にならないよ。それに…飛影自身、分かっているんだ。涼を正気に戻せるのは、自分だけだってね」

(痛いほどに伝わる、涼の悲しみ)
(それを癒す事ができるのは)
(涼が一番心を許した彼だけ)