小望月(こもち)…満月の前の日 ページ3
午前0時。
「はぁ、、ただいま」
家に帰ると途端に疲れが身体から染み渡り、ソファに倒れこんだ。
今日も疲れた。癒してほしい。
そう思うと身体は不思議と癒しを求めて出掛ける用意をする。
あの歌声に逢いたい。
徒歩10分程でその店には辿り着く
真夜中の月
小さな光る看板に優しくその店名は輝いていた
不思議な名前だなぁ
あぁ前来た時は声に惹きつけられて入ったのだから店名なんて見向きもしなかったのか
カランコロン
店名からは歌声が聴こえることもなく
電子的なジャズのBGMが流れてるだけだった
「こんばんは」
「あぁ、どうも」
カウンターにはマスターではなく、女の人がいた
いらっしゃいませ ではなく こんばんは
お客と店員という関係を感じさせなかった
「空いてる席へどうぞ」
僕はカウンターの端っこに座る
「ご注文お決まりでしたらお呼びください」
「カフェラテありますか？」
「はい、あります」
「じゃあ、それで」
「かしこまりました」
彼女はエスプレッソを淹れはじめた
深い香りがする
「あの」
本当の目的はカフェラテではないのだ
あの、歌声
「なんでしょう？」
「弾き語りは今日ないんですか？」
まるで、お菓子が貰えない子どものように
少し失礼だったのかもしれない、弾き語りをメインに売りにしてないお店かもしれないのに、行った後で後悔
「今日は小望月ですから」
彼女は笑顔で言った。
お菓子が貰えない子どもをなだめるような優しい笑顔で
「ん？、、子持ち？」
「違いますよ、小さいにもちづきって書いてこもちです。んー満月の前の日ってとこですかね」
思いもよらない答えで間抜けな声が出てしまった
「今日は小望月だから明日が満月なので、明日私弾き語りしますよ」
「そうなんですか、、、って貴方が？」
「そうですよ、満月の日に私の気分で弾き語りをするんです」
なんと、恋い焦がれていた歌声の主が目の前にいるじゃないか。
ありがとう、、神様、、
ガラスの靴の主が見つかったみたいな
なにこの嬉しさ
「前の満月に貴方の歌を聴きましたよ。とても綺麗でした。」
冷静さを装いつつ、心の中では貴方を抱きしめたいぐらい褒めたかった
「綺麗だなんて、、、初めて言われました。ありがとうございます」
彼女はまた照れ隠しに俯き、エスプレッソに牛乳を入れる
「お待たせしました。カフェラテです」
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作者名：怜 | 作成日時：2016年11月4日 11時
