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フルハウス ページ7

Aは多趣味であった。ポケットの中にはいつでもトランプを忍ばせてあったし、ジャケットの内ポケットには誰かにくれてやるための金が入っていた。胸ポケットには高価そうな万年筆と小さなメモ帳が常に入れられていた。A曰く、誰かに金をやる事も趣味なのだそうだ。だからそれを遠慮する奴は俺の趣味を否定している様な気がして嫌になる、とのこと。

 大事な任務に取り掛かる直前にAはその高価そうな万年筆で下手な犬の絵を描いて僕に見せた事がある。僕は犬が嫌いだ。思い切り顔を顰めてやったら、Aは腹を抱えて身悶えた。

「いいから、いいから」

 何がいいのかは全く分からなかったが、Aは無理矢理僕の外套のポケットの中へその絵をくしゃくしゃに折り曲げながら押し込んだ。僕もそれ以上は何も言わず、任務に集中しようと無視を決め込んだ。

 任務が始まる。ある程度の武器が無効化できる羅生門の前では敵などただただ雑魚に過ぎず、有象無象共が騒ぎ立てているだけであった。

 だが、時には僕とて失態を犯す。いつの間にか僕の背後に立っていた男が銃を此方に向けていたのだ。とてもではないが今屠っている羅生門を此方に戻して防御をさせる訳にもいかず、一発程度は当たってやろうと覚悟した。

 その時だ、野犬がそいつの腕へ噛みついたのは。男は犬を退けようと必死にもがき始め、僕の事など忘れていたのだ。これは願ってもいないチャンスだと羅生門で男を喰らい、任務は滞りなく終わった。

「なあ、良かっただろう?」

 にまにま笑いながらAが野犬を連れて血みどろになりながら近寄って来た。ツンと鼻を突く鉄の臭いと、薄汚い野犬を前にしてまた僕は顔を顰めた。

「命の恩人だったかもしれない犬にそれはないだろ」

 笑みを引き攣らせながらAはそう言うと、犬を連れて帰ってしまった。後日Aから聞いた話では任務の場所では時々人をよく襲う野犬が居る事を知っていたらしく、もし運が良ければ…と思っていたそうだ。下手な犬の絵を描いたのはもし犬のお陰で事態が好転したら慈悲を与えてやって欲しかったとのこと。

 僕は犬は嫌いだったが、手を掛けるほど嫌いかと言えば否だった。Aは犬が好きで、野犬を引き取ったと言う。それから二年もすればAは賢いシェパードですら三日で馬鹿にしてしまうと言われるほど犬に甘い男になった。そんな事が多々あり、Aの趣味はどんどん増えていったのだ。

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袋小路窮鼠(プロフ) - 月さん» いつか書きたいとは思っていましたが遥か彼方の理想郷にしかなりませんでした。様々な可能性を秘めている彼はとても魅力的です。一ヶ月弱ではありましたが本当に有難う御座いました。時々月さんのお言葉を思い出し、いつまでも励んでいきたいと思います。 (2019年3月29日 18時) (レス) id: e982473bb6 (このIDを非表示/違反報告)
袋小路窮鼠(プロフ) - 月さん» こんなにも心の籠った感想が頂けてとても嬉しいです、有難う御座います!いかんせん短編しか書けないたちなので急展開ばっかりではありましたがそう言って貰えて何よりです。私は彼の生き様が何よりも好きなので敢えてそうしているのですがハッピーエンド良いですよね。 (2019年3月29日 18時) (レス) id: e982473bb6 (このIDを非表示/違反報告)
(プロフ) - 左目から鯖味噌さん» 感想が長くなって申し訳ないのですが、本当に素晴らしかったですとだけお伝えします。こんな素晴らしい作品を生み出してくださってありがとうございました!これからも影ながら応援させていただきます。 (2019年3月29日 17時) (レス) id: f01d23ed14 (このIDを非表示/違反報告)
(プロフ) - 左目から鯖味噌さん» 完結おめでとうございます。最後までとても引き込まれる文章で、軽く感動しました。私はハッピーエンドなお話が好きなので、そういうのを書いたり読んだりしているのですが、作者さんのあとがきを読んで、芥川は確かにそんな生き様だなと納得させられました。 (2019年3月29日 17時) (レス) id: f01d23ed14 (このIDを非表示/違反報告)
左目から鯖味噌(プロフ) - 月さん» 有難う御座います!確かにそんなイメージがありますね。もっと増えれば良いのにと思いつつ自給自足の日々です。菊池くんは何となくパッと見である程度の方に良い人って思えるようにしたくて悪戦苦闘していますがそう言って頂けて安心しました。引き続きお楽しみください (2019年3月3日 20時) (レス) id: e982473bb6 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:袋小路窮鼠 | 作成日時:2019年3月2日 13時

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