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Effective stack ページ4

余りこういう話はしたくないのだが、と。決まってAはそう前振りをしてから話し始める。そう言う時は大抵決まってどうしようもなく下らぬ話をするのが常であった。Aが死んだ日から一週間ほど前だろうか。いつもは朗らかに笑っているAは、この時ばかりは目を伏せて、しおらしくしていた。

「余りこういう話はしたくないのだが」

 その時もこう前振りをした。僕の自室でベッドに腰掛けながら、明かりも付けずに帰宅して来たばかりの僕に何の話をする気だと、僕は訝しんだ。もしやギャンブルで捨てた金の工面をして欲しいだとかではないだろうか。随分前にこの手で僕の財布から一万円紙幣を五枚ほど出させたことがあるのだ。

「お前はさ、死ぬんだったら死因は何がいい?」
「死因か」
「そう、死因」

 薄気味悪くにたにた笑う彼奴に、僕は喉がひくりと上下したような気がした。こんな笑みをしながらそんな事を聞くんじゃない。薄暗い部屋でそんな話をされれば、誰でも雰囲気に呑まれるというものだ。つまり、僕も呑まれた。

「戦って、戦って…太宰さんに少しでも記憶に留めて貰えれば本望だ」
「芥川らしいや」

 乾いた笑みを零したAに、この時ばかりは何より違和感を覚えた。そう言えば、この男は今年に入って早々家を建てていた。そんな実にめでたい年に一体何を言うのだ。益々僕は分からなくなって、眉を顰める。

「俺はさ、九蓮宝燈をあがって死にたいね。運と言う運を全て使って死にたい」
「何故?」
「九蓮宝燈は英語でNine Gates(九つの門)だとかHeavens Door(天国の扉)とか言われているんだぞ。これで死ななきゃ菊池が廃る」
「また訳の分からぬ事を…」

「俺はな、葬式の事を考えてあの家を建てたんだ。応接間なんて告別式にとても便利だよ、きっと」

 この男ときたら!僕は腹が煮えくり返ってAを掴みかかった!二度三度顔を殴って、よせよせとAが泣くまで胸倉をひっつかんで睨んでやった。この時ばかりは僕は彼奴が憎くて憎くて仕方なかった。だが、今でも悪かったと、もう二度と言わないと誓わせなかった僕の事も憎くて仕方がない。

 結果、Aは言った通り九蓮宝燈をあがったが為に死に、自宅の応接間でただ遺影と花ばかりがある空間で僕はAに対する手紙を読んだ。思えば、きちんと言葉を文字にするようにしたのはAに勧められたからだった。

「菊池は馬鹿だ」

 涙の代わりに悪態が出た事だけはよく覚えている。

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袋小路窮鼠(プロフ) - 月さん» いつか書きたいとは思っていましたが遥か彼方の理想郷にしかなりませんでした。様々な可能性を秘めている彼はとても魅力的です。一ヶ月弱ではありましたが本当に有難う御座いました。時々月さんのお言葉を思い出し、いつまでも励んでいきたいと思います。 (2019年3月29日 18時) (レス) id: e982473bb6 (このIDを非表示/違反報告)
袋小路窮鼠(プロフ) - 月さん» こんなにも心の籠った感想が頂けてとても嬉しいです、有難う御座います!いかんせん短編しか書けないたちなので急展開ばっかりではありましたがそう言って貰えて何よりです。私は彼の生き様が何よりも好きなので敢えてそうしているのですがハッピーエンド良いですよね。 (2019年3月29日 18時) (レス) id: e982473bb6 (このIDを非表示/違反報告)
(プロフ) - 左目から鯖味噌さん» 感想が長くなって申し訳ないのですが、本当に素晴らしかったですとだけお伝えします。こんな素晴らしい作品を生み出してくださってありがとうございました!これからも影ながら応援させていただきます。 (2019年3月29日 17時) (レス) id: f01d23ed14 (このIDを非表示/違反報告)
(プロフ) - 左目から鯖味噌さん» 完結おめでとうございます。最後までとても引き込まれる文章で、軽く感動しました。私はハッピーエンドなお話が好きなので、そういうのを書いたり読んだりしているのですが、作者さんのあとがきを読んで、芥川は確かにそんな生き様だなと納得させられました。 (2019年3月29日 17時) (レス) id: f01d23ed14 (このIDを非表示/違反報告)
左目から鯖味噌(プロフ) - 月さん» 有難う御座います!確かにそんなイメージがありますね。もっと増えれば良いのにと思いつつ自給自足の日々です。菊池くんは何となくパッと見である程度の方に良い人って思えるようにしたくて悪戦苦闘していますがそう言って頂けて安心しました。引き続きお楽しみください (2019年3月3日 20時) (レス) id: e982473bb6 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:袋小路窮鼠 | 作成日時:2019年3月2日 13時

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