逆転荘園 (ページ5)

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轟音ページ5

急ぐあまり、操作を間違えそうになる。自分だけが焦ってもどうにもならないことを知っているのは他ならないジョゼフなののにも関わらず、焦る。額から噴き出す汗を拭うのすら惜しい。尤も、ジョゼフが袖で汗を拭うだなんてことは天と地がひっくり返ったとしても有り得ないのだが。

　通知が響く。美智子が一発貰った音だ。無心に打ち込んでいくリッパーを横目で確認すると、ふうふう息を吐いている。どうやらある程度精神的に参ってきているらしい。普段はあんなにもしっかり背筋を伸ばして紳士の何たるかを鼻歌と共に口ずさんでいる姿からは、到底想像できない。あのリッパーが、参っている。

　今度は美智子が居るであろう方向へ視線を移す。荘園の主からの心遣いか、それとも天からの情けなのかは定かではないが、誰かが一撃を貰うと一瞬だけハンターの姿が分かるようになっている。サイドの巻き髪、華奢な体。あれは間違いなく…

「空軍だ」

　ドン。轟音と共に地響きが一瞬起こる。リッパー共々よろめくと、解読機が火花を散らした。まずい、場所がバレた。しかしこの場を離れるわけにはいかない。リッパーと顔を見合わせてから、頷く。考えていることは同じだったらしい。

「良いですか、もし彼女が椅子に座らされたら救助は貴方が行ってくださいね」
「何故？」
「今の私では、彼女を助けられる確率が貴方と比べてずっと低い。そんな気がするんです」
「へえ。精神的に参っているくせにちゃんと分かっているんだね」
「余計なお世話です！」

　解読器はあと半分ほど。それくらいの時にまた美智子が攻撃を喰らった通知が入る。二度目の負傷は、立ち上がる権利がない。うずくまる美智子を風船で持ち上げる空軍。距離はそれほどないが、今行った方が迅速な対処ができる。解読機から手を放し、座らされた美智子の方へと駆け出した。生憎、走るのは余り得意ではない。もっと言えばサーベルを振るうのだって子供の頃からそんなに楽しいと思ったことはないし、そもそも運動自体好きではなかった。そんな自分が、今全力で仲間のために走っている。喉が焼けるように痛むこの感覚は、果たして何十年ぶりだろうか。

「間に合ってくれ…！」

　美智子が座っている椅子の周りをくるくる回っている空軍がやけに憎らしい。そうか、普段のサバイバーから見た我々とは、こんな印象なのか。

　忌々しい。熱い息が喉を伝って口から零れた。