待機 ページ2
不愉快極まりない。ジョゼフは待機室で未だに集まらない参加者等に苛立っていた。荘園の主の気紛れで行われたこの催しはジョゼフには全く納得できないものであったのだ。
立場の逆転、変化などあってはならない。それが如何なる理由であっても。貧民街に住まう餓鬼共はどう足掻いても精々使用人にしかなれないし、ジョゼフのような爵位を得ていた人間は例え地位こそなくなろうとその精神はいつまでも当時のままである。立場とは、不変である。
「すみません、お茶会をしていて遅くなってしまいました」
鼻歌と共に鋭利な爪を見せびらかした仮面の紳士がジョゼフの隣へ腰掛ける。長い足を組んで、まただらだらと鼻歌を口遊むのだ。
「…おや、その手は一体どうしたんだい?」
「どうしたも何も、荘園の主のご意見をそのまま受け取ったまでに過ぎませんよ」
「猫の爪で相手の好奇心を殺せって?」
椅子と共にひっくり返ってしまうのかと言うくらいジョゼフは高く高く笑った。これが笑わずにいられるか!この男ご自慢の爪が今やジョゼフと大差ない程の小型の物に代わっているではないか!一体それで何ができるのだろうか。ハンターの前で猫撫で声で媚びでも売りに行くのか?相手の不幸を考えただけでジョゼフは顔が熱くなってしまう。
「そんなに笑いますかね?」
「笑うに決まっているだろう。あんなに見せびらかしていた爪が今や私と同じくらいだなんて…きみもそうは思わないかい、ベイン」
重い足取りで鹿頭の大男が続いて席に着く。ベインはジョゼフが大笑いしている意味がよく分かっていなかったが、その視線の先を追えばすぐさま理解して野太い声で笑った。余りにも大きな声でテーブルががたりと揺れてしまいそうな気すらする。
リッパーの背後で何やら赤いものが横切った気がするが、口元に人差し指を添えていたからジョゼフとベインは笑いながらしきりに頷いた。それを怪訝そうに見つめるリッパーのせいで余計に可笑しかった。
「それよりもあと一人は何処へ行ったのでしょう?そろそろハンター側が着いても可笑しくない頃でしょう?」
「かなん人。そないならあたしは帰りましょうか?」
「ヘアッ!」
ぬっとリッパーの背後から現れたのは芸者こと美智子だ。彼女は浮遊しながらリッパーを驚かそうとくつくつ笑っていたことを知らなかった紳士は、無様に椅子から転げ落ちるしかなかったのだった。
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作者名:袋小路窮鼠 | 作成日時:2019年6月4日 23時