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生い立ち ページ9

腕の怪我はAが言った通り、さほど深くは無く軽傷の範疇に入るものだった。これには太宰や国木田も驚き、無駄に器用なのだなと何とも嬉しくない感心をされた。
現在は額の傷の消毒及びガーゼの貼付け作業を行っているらしい。取り調べの時に感じた額の痛みはどうやら擦り傷だったらしい。どうりで痛い訳だと納得した。

「踏みつける力が強すぎたんだよね」
「お前が稀に見る厄介な不審者に見えたものでな」
「わあ酷い」

終いだと言わんばかりにガーゼをやや強く貼られると、やっとの事で解放された。ここまで言っておきながら自分は痛い辞めろと喚き散らし、国木田に全てを一任していたのだ。ほんの少し罪悪感を覚え、国木田の懐の広さに感謝した。

救急箱を片付けながらまたもや国木田は何やら小言を言っていたが、Aも太宰も知ったこっちゃないと知らぬ顔をする事にした。恐らくここで変な事を言えば長い説教が始まる、直観的に感じた。

「A、履歴書だ」

ぱたんと救急箱を閉じると、国木田は書類を差し出してきた。まじまじと見ていると、太宰は日本語は読めるかい、なんて聞いてきた。莫迦にしないで頂きたい。こう見えて漢字もきちんと読めるのだ。Aは胸を張って自慢した。純潔の日本人に漢字が読めるのだぞと自慢したところで大した凄さは感じてくれないのであろうが。
書類を受け取り、任せてくれと言わんばかりにウィンクをしてみせる。それに対して二人共急にぷいとそっぽを向いてしまったものだからこの上なく悲しくなってしまった。

「明日までで良いのかい?」
「是非そうしてくれ」

「そう言えば、Aさん歳は幾つなんだい?」
「今年で二八になる。所謂ところのアラサーってやつだ」

Aの言葉に二人はぽかんとする。ゆっくりと互いに見つめ合い、同じタイミングでAを五秒ほど見つめると、何を言っているんだと言わんばかりの表情を浮かべた。

「…年齢詐称は駄目だよ?」
「履歴書にはしっかり真実を書け。無理に罪を増やす必要は無い」

「否、本当だよ!?可笑しいな、また私の生い立ちから今に至るまで全て話さなくてはならないのかい?おいおい、家族にアルバムを送ってくれだなんて今更ホームシック紛いの事は言いたくないのだよ!?」

無表情で似たような言葉を発する二人にAは思わず叫んだ。若く見えるのは良いことだ。だが、若く見えすぎるのは不便極まりない。

「実はAさんが男性かすら私は疑っているんだが」
「やめて」

夢→←抵抗



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左目から鯖味噌(プロフ) - 書けるように頑張りますね。感想ありがとうございました。 (2017年12月27日 11時) (レス) id: e982473bb6 (このIDを非表示/違反報告)
左目から鯖味噌(プロフ) - 21さん» 有難う御座います。言葉が気持ち悪くないか何度も自問自答していたのですがそう言って頂けて嬉しいです。更にはご本人の方にも興味を持って頂きとても喜んでおります。お金を払いたい位だなんて恐れ多い言葉以外の何ものでもありません。楽しみにして頂けるような作品が (2017年12月27日 11時) (レス) id: e982473bb6 (このIDを非表示/違反報告)
左目から鯖味噌(プロフ) - 七葉さん» コメントありがとうございます。大抵今後の展開を考えない行き当たりばったりの不安定更新ではありますが七葉さんの温かいお言葉のお陰でまだまだ頑張れそうです。これからもっともっと楽しめるお話にしていく事が出来たら幸いです。コメントありがとうございました。 (2017年12月6日 21時) (レス) id: 7e4ff29a97 (このIDを非表示/違反報告)
七葉 - とても続きが気になります!これからどうなっていくかが楽しみですね!更新頑張ってください!応援してます! (2017年12月6日 20時) (レス) id: 88ee75b376 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:左目から鯖味噌 | 作成日時:2017年11月3日 14時

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