抵抗 ページ8
「お前達は何の話をしているんだ」
ぬうと国木田が玄関から顔を出した。どうやら自室での所要が終わったらしい。部屋をきょろりと見渡すなり、電気を付けることも出来んのか、暖房くらい付けろ。等とまるで姑のような勢いで小言を零し始めた。
ぱちり、とスイッチを押す音が聞こえると部屋には煌々と明かりが灯る。突然明るくなり、Aは思わず目を閉じた。
「A、腕を出せ。応急処置くらいはしておく」
「これくらいどうってことないし放っておいても…」
「この莫迦が!」
びくんとAの肩が跳ねる。たかだか他人の怪我でこんなにも怒る奴があるか。親でもあるまいし、Aはふいと顔を逸らした。それを良しとしない国木田がAの顎を掴み、乱暴に目を合わせた。
「そんな腕をしている奴を放っておく阿呆が居るか!」
国木田の眉間に皺が深く刻まれる。いつか跡になってしまうのではないのだろうかと思うとそれはとても勿体ない、損をしている事だと感じた。国木田の言葉に深く心を温められておきながら、Aは無言で国木田の眉間の皺を伸ばすべく、ぐいと人差し指で押した。
「じゃあ、お願いしようかな」
にんまりと、人を食ったような笑みを浮かべて見せる。何か言いたそうにしていたが、恐らく言うだけ無駄だと判断したのだろう。Aの指をがっしりと掴めば逃げ場を抑える様に己の膝上へと固定した。何だかAがちょっとした痛み如きに根を上げる様な子供に思われている様だ。
国木田の傍らには救急箱があり、先程の所要はこれを取って来るためなのだと理解をした。健気なのか、無自覚な人たらしなのか。Aは段々訳が分からなくなっていると同時に罪を犯した人間を此処まで手厚く世話を焼く事の出来る国木田に一種の恐怖心すら覚えた。
消毒液を染み込ませた脱脂綿が傷口へと添えられる。そこからはまるで火傷でもしたように燃え上がる熱と痛み。思わず呻き声が漏れた。
「痛むか?」
「痛かったら手を挙げようね」
心配そうな国木田の問いと、小ばかにする太宰の声。嗚呼、もう、どうすればいいのかさっぱり分からない。Aは唇をきつく噛み締めた。
「おい、口も怪我をしたのだろう。噛み締めるな」
何度も何度も傷口へ当てながら、時につうとなぞりながら消毒をする国木田を涙を浮かべながらAは睨みつけた。せめてもの抵抗と言わんばかりに。
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左目から鯖味噌(プロフ) - 書けるように頑張りますね。感想ありがとうございました。 (2017年12月27日 11時) (レス) id: e982473bb6 (このIDを非表示/違反報告)
左目から鯖味噌(プロフ) - 21さん» 有難う御座います。言葉が気持ち悪くないか何度も自問自答していたのですがそう言って頂けて嬉しいです。更にはご本人の方にも興味を持って頂きとても喜んでおります。お金を払いたい位だなんて恐れ多い言葉以外の何ものでもありません。楽しみにして頂けるような作品が (2017年12月27日 11時) (レス) id: e982473bb6 (このIDを非表示/違反報告)
左目から鯖味噌(プロフ) - 七葉さん» コメントありがとうございます。大抵今後の展開を考えない行き当たりばったりの不安定更新ではありますが七葉さんの温かいお言葉のお陰でまだまだ頑張れそうです。これからもっともっと楽しめるお話にしていく事が出来たら幸いです。コメントありがとうございました。 (2017年12月6日 21時) (レス) id: 7e4ff29a97 (このIDを非表示/違反報告)
七葉 - とても続きが気になります!これからどうなっていくかが楽しみですね!更新頑張ってください!応援してます! (2017年12月6日 20時) (レス) id: 88ee75b376 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:左目から鯖味噌 | 作成日時:2017年11月3日 14時