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空き部屋 ページ7

二人の会話に無性の苛立ちを感じたのか、国木田は後ろを振り返りぎろりと睨む。それに対しAと太宰は眉を下げ、女の様な甘みを帯びた声色で怖いだのと主張をしてみせる。やがて呆れたのか諦めたのかは不明だが、溜息を吐くなり此方を見る事も無く歩く速度を速めた。

辿り着いた場所は所謂アパートの様な場所で、恐らく社員寮なのだろう。よく見れば隣の部屋の表札には国木田と書かれていた。案内された部屋にはそのような表札は無い。空き部屋だ。恐らく此処を好きに使えという事なのだろう。
此処でAが気にするべき事は元々住んでいたアパートの事である。大家に部屋を返してしまえばそれで終いなのだが、如何せんあの場所には沢山の画材がある。運び出すのは至難の業と言っても良い程に。いつ終わるのかもわからない引っ越し作業を思えば、自然と重い溜息が口から出てしまった。

「今日から此処がお前の部屋だ。好きに使え…だが不必要な壁紙の張り替えや傷、着色は許可しない」
「君は私を一体何だと思っているんだ」

有無を言わせぬ圧力で念を押す国木田にAは困った。それと同時に呆れすら覚えてしまった。ひとたび懐へ入れてしまったら此処まで世話を焼くような人たらしなのか、と。もし国木田が今後海外へ行く用事が出来た時には同行しなくてはいけない。日本ではまだこれで良いが海外ではこうもいかないものだ。Aは早速使命感をひしひしと感じた。

そうこうしている内に国木田は何やら自分の部屋に用事があるらしくAを太宰に預けるなり自分の部屋へと戻って行ってしまった。飼い主が仕事へ出て行くのを見送る犬のような気持ちになってしまって、一種の寂しさを覚えた。

「ところでAさんはジャック・ザ・リッパーっていうのは本当なのかい?」

無神経包帯男、太宰の爆撃が発射された。それがまず人の部屋に入って言うべき事か。明かりを付ける事も無く、備え付けの座布団に腰を降ろして、太宰はうっそりと笑う。向かい側へ座布団を置いた事から、其処へ座れと言いたいのだろう。先輩の言葉はある程度聞いておくべきだと学生時代に学んだことから静かに腰を降ろす。日本へ来て未だに座布団の上に腰を降ろす事に慣れていないせいか、そわそわしてしまう。

「勿論。あんなところで嘘が言える奴は余程の馬鹿だ」
「隠すことも出来たんじゃない?」

「何を言うんだね君は」

「あんな所だからこそ全てを話さなくてはいけないんだよ」

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左目から鯖味噌(プロフ) - 書けるように頑張りますね。感想ありがとうございました。 (2017年12月27日 11時) (レス) id: e982473bb6 (このIDを非表示/違反報告)
左目から鯖味噌(プロフ) - 21さん» 有難う御座います。言葉が気持ち悪くないか何度も自問自答していたのですがそう言って頂けて嬉しいです。更にはご本人の方にも興味を持って頂きとても喜んでおります。お金を払いたい位だなんて恐れ多い言葉以外の何ものでもありません。楽しみにして頂けるような作品が (2017年12月27日 11時) (レス) id: e982473bb6 (このIDを非表示/違反報告)
左目から鯖味噌(プロフ) - 七葉さん» コメントありがとうございます。大抵今後の展開を考えない行き当たりばったりの不安定更新ではありますが七葉さんの温かいお言葉のお陰でまだまだ頑張れそうです。これからもっともっと楽しめるお話にしていく事が出来たら幸いです。コメントありがとうございました。 (2017年12月6日 21時) (レス) id: 7e4ff29a97 (このIDを非表示/違反報告)
七葉 - とても続きが気になります!これからどうなっていくかが楽しみですね!更新頑張ってください!応援してます! (2017年12月6日 20時) (レス) id: 88ee75b376 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:左目から鯖味噌 | 作成日時:2017年11月3日 14時

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