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火炙り ページ5

作者を目の前にしたファンというのは二手に分かれる。崇拝か落胆か。前者は想像しやすいだろう。後者は複雑怪奇だ。如何にしてファンが作者に落胆するかの基準等十人十色としか言い表すことが出来ない。
だが、今の福沢は明確に判断できる。どの様な形であれAの作品を知っていた以上、作者がこの様な気の違った奴ならば誰でも落胆する筈だ。

男は福沢へ深々と頭を下げると、ひそひそと何やら話し始める。可哀想な事に取り残されたもうひとりの男はAの元へと歩み寄り、道化師の様に笑ってみせた。

「私は太宰治。よろしくね、Aさん」
「太宰!」

そう言って縄を解こうとする太宰に男は怒声を浴びせる。それを気にも止めず、太宰は呑気にふんふん鼻歌を歌っている。この何とも言えない奇行にAは背中に嫌な汗が伝うのを感じた。太宰治という男はもしや自分以上に気の狂った男なのではないか?

「私でもこうやって探偵社の社員になれたのだし、別に良いだろう?それに、敦くんと一緒に彼の世話をするのも満更でもないのだよ。お堅い国木田くんと違ってね?」

どうやら眼鏡の男は国木田と言うらしい。蟀谷を押さえながら大きな溜息を吐くと、この男に何を言うべきかと小声で呟き始めた。横に社長が居ると言うのに良いのだろうか。此処まで来ると一周回ってAと福沢だけが常識人な様に見えて来る。否、それは無いだろう。

「社長だって実は満更でもないのでしょう?前に展覧会のパンフレットを持って溜息を吐いていたじゃありませんか」

太宰の言葉に福沢は静かに目を伏せる。どうやら図星だったらしい。
手足の拘束を完全に解かれたAは椅子から腰を上げ、床へ正座をし頭を付ける。所謂ところの土下座である。

「お願いします。どうか、どうか此処で働かせてください。どんな苦しい仕事でも耐えて見せます。私は、ただもうあんなことをしないと更生するのではなく、なんて恐ろしい事をしてしまったのだろうと改心し、悔い続けて居たいのです」

「ただ正義に身を投じ、清い人間になれたのだと錯覚する檻の中の獣には、なりたくないのです」

どうか、どうか。よろしくお願いします。どうか。

Aの口からはもうそれしか出ない。寧ろ、それ以外の言葉を持っていない。
なんて惨めで情けないのだろう。けれど、これくらいは当然なのだ。一度獣になったのであれば、戻るのは火炙りにされること以上に辛いのだ。

冷たい→←ファン



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左目から鯖味噌(プロフ) - 書けるように頑張りますね。感想ありがとうございました。 (2017年12月27日 11時) (レス) id: e982473bb6 (このIDを非表示/違反報告)
左目から鯖味噌(プロフ) - 21さん» 有難う御座います。言葉が気持ち悪くないか何度も自問自答していたのですがそう言って頂けて嬉しいです。更にはご本人の方にも興味を持って頂きとても喜んでおります。お金を払いたい位だなんて恐れ多い言葉以外の何ものでもありません。楽しみにして頂けるような作品が (2017年12月27日 11時) (レス) id: e982473bb6 (このIDを非表示/違反報告)
左目から鯖味噌(プロフ) - 七葉さん» コメントありがとうございます。大抵今後の展開を考えない行き当たりばったりの不安定更新ではありますが七葉さんの温かいお言葉のお陰でまだまだ頑張れそうです。これからもっともっと楽しめるお話にしていく事が出来たら幸いです。コメントありがとうございました。 (2017年12月6日 21時) (レス) id: 7e4ff29a97 (このIDを非表示/違反報告)
七葉 - とても続きが気になります!これからどうなっていくかが楽しみですね!更新頑張ってください!応援してます! (2017年12月6日 20時) (レス) id: 88ee75b376 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:左目から鯖味噌 | 作成日時:2017年11月3日 14時

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