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自分が求めていた物は無であり、そこからは何も失われる事はないが、得る事もない。それを全て少女の瞳が語ったのだ。

「ある人は私が犯した罪をたったそれっぽっちなんて言った。けど、罪は罪。たったそれだけだなんて言葉で終わって良い事じゃない」

「一人でも手に掛けたら、その時点で異端なの」

添えられていた手がAの頬から離れると、その手の持ち主の少女は百合が咲くような花笑みを浮かべる。彼女が今どんな気持ちでこれを語っているのか。如何にしてその様な勇気を手に入れたのか。Aには到底分からない。けれど、自分が今こんなところで泣いている場合では無い事だけは確かだった。

必要なのはデッサン力ではない。ただひたむきに上手くなろうと努力する心なのだ。それと同じように、Aに必要なのは聖人ぶることではない。
拳でぐいと涙を拭う。いつまでも泣いているのは格好が付かない。

「帰ろう、泉。このまま道草を食っていたら私が吹き飛ばされかねないからね」
「うん、出来るだけ早く帰ろう」

彼女へ手を差し出すと、丁度クレープを食べ終えたらしくその手をしっかりと握った。太陽はもう二人の真上に昇っていて、とんでもない遅刻だと今更ながら焦ってしまう。

今自分がどういう表情をしているのか、分からない。けれど、心からは霧が晴れている様な気がして、今自分は世界で一番心が軽い人間なのではないかと錯覚してしまう程だった。足の疲れなんて一切感じない。嗚呼、自分は何のために走っているのだろうか。ふと自問したが、答えを返す事は出来なかった。否、出来なくて良かったのかもしれない。それもまたひとつの答えなのだから。

「おはようございます!」

エレベーターを使う事すら煩わしくて、階段を駆け上がるとそのままの勢いで探偵社の扉を開くと、社員の視線が一斉にAへ集中する。俳優だった時にこれくらいの視線が欲しかったな、と苦笑を浮かべて。

「用事は済んだか」
「勿論です」

国木田が前に出ると、Aを睨む。その目はいつもよりも鋭く、ナイフなんかと比べるにはあまりにも対象にならない程であった。国木田は拳を握り、それを見せつけるかのようにAの前へ突き出せばそのまま肩を軽く殴った。

「さっさと業務に入れ。貴様の穴埋めはせんぞ」

溜息を吐きながらAへと掛けられた言葉はあまりにも温かくて、無意識に頬が緩んだ。

「任せて。すぐに遅れを取り戻そう」

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左目から鯖味噌(プロフ) - 書けるように頑張りますね。感想ありがとうございました。 (2017年12月27日 11時) (レス) id: e982473bb6 (このIDを非表示/違反報告)
左目から鯖味噌(プロフ) - 21さん» 有難う御座います。言葉が気持ち悪くないか何度も自問自答していたのですがそう言って頂けて嬉しいです。更にはご本人の方にも興味を持って頂きとても喜んでおります。お金を払いたい位だなんて恐れ多い言葉以外の何ものでもありません。楽しみにして頂けるような作品が (2017年12月27日 11時) (レス) id: e982473bb6 (このIDを非表示/違反報告)
左目から鯖味噌(プロフ) - 七葉さん» コメントありがとうございます。大抵今後の展開を考えない行き当たりばったりの不安定更新ではありますが七葉さんの温かいお言葉のお陰でまだまだ頑張れそうです。これからもっともっと楽しめるお話にしていく事が出来たら幸いです。コメントありがとうございました。 (2017年12月6日 21時) (レス) id: 7e4ff29a97 (このIDを非表示/違反報告)
七葉 - とても続きが気になります!これからどうなっていくかが楽しみですね!更新頑張ってください!応援してます! (2017年12月6日 20時) (レス) id: 88ee75b376 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:左目から鯖味噌 | 作成日時:2017年11月3日 14時

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