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無事願っていた物を入手する事が出来た泉は近くの公園のベンチへ座ると黙々とクレープを食べ始めた。何故こんなにも寒い中店ではなく移動販売車で購入し公園で食べるのかとAは不思議に思い問い掛けたのだが、泉は平然とした顔でこっちの方が楽しいと言った。Aは納得できずにいたが、そういうものなのだろう。分からなければ分からないままで良い。

半分くらいクレープを食べ終えた頃、泉はAを見詰めると口を開いた。

「私、探偵社に入る前まではポートマフィアに居た」

それは衝撃の告白であった。Aからすれば、背後から頭をぶん殴られたような衝撃を覚える程の。

「何人もの人を手に掛けた。これは許されない事で、これ以上は嫌だと心から思った。その事を口にしたら、探偵社の皆が私に光を見せてくれた」

その小さな体で、沢山の人間を手に掛けて来た。それをこんな出会って間もない男に告白する事がどれだけ酷な事なのか。Aに測る事は出来ない。

「私がこんな所に居て良い筈が無い。光を見せられるたびにそう思った。何度も闇へ戻されたけど、私の居場所は探偵社だけだと戻されるたびに思うようになった」
「だから、今の貴方の気持ちは分かるかもしれない。だから助けた」

「けど、今の貴方の行動は全部から回っている」

黒曜の瞳はAを貫いた。
嗚呼、この少女はだからAの居場所を知ることが出来たのだと。国木田にばれないようにと口走った言葉に偽りを覚えたのだと。全てに納得した。

なんとなく、自分のやっていることは可笑しな事なのではないかと薄々思っていた。けれど、どこが可笑しいのかを理解する事は出来ずにただ走った。

「罪ばかりを意識しているからから回るの。自分は幸せになってはいけないと縛る事が罪に囚われる事じゃない」

本当に、目の前の少女はAよりも一回り以上に幼いのだろうか。

「貴方の行動はただの被害者の皮を被った加害者。それではいけない」

泉の手が、Aの頬へと添えられる。まるで中原に触れられたところを上塗りし、忘れさせようとしているかのように。

「先輩だから教えてあげる。最期に普段の幸せを全部捨てる覚悟が罪に囚われる人間の有り方なの。誰かはこれを間違った有り方だと言うのかもしれない。けど、私はそう思う。だから、貴方にだけ教えた」

しっかりとAを見詰めるその瞳の何と気高く、危うい事か。
自分の業ではなく、少女の瞳にAは涙した。

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左目から鯖味噌(プロフ) - 書けるように頑張りますね。感想ありがとうございました。 (2017年12月27日 11時) (レス) id: e982473bb6 (このIDを非表示/違反報告)
左目から鯖味噌(プロフ) - 21さん» 有難う御座います。言葉が気持ち悪くないか何度も自問自答していたのですがそう言って頂けて嬉しいです。更にはご本人の方にも興味を持って頂きとても喜んでおります。お金を払いたい位だなんて恐れ多い言葉以外の何ものでもありません。楽しみにして頂けるような作品が (2017年12月27日 11時) (レス) id: e982473bb6 (このIDを非表示/違反報告)
左目から鯖味噌(プロフ) - 七葉さん» コメントありがとうございます。大抵今後の展開を考えない行き当たりばったりの不安定更新ではありますが七葉さんの温かいお言葉のお陰でまだまだ頑張れそうです。これからもっともっと楽しめるお話にしていく事が出来たら幸いです。コメントありがとうございました。 (2017年12月6日 21時) (レス) id: 7e4ff29a97 (このIDを非表示/違反報告)
七葉 - とても続きが気になります!これからどうなっていくかが楽しみですね!更新頑張ってください!応援してます! (2017年12月6日 20時) (レス) id: 88ee75b376 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:左目から鯖味噌 | 作成日時:2017年11月3日 14時

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