全快 ページ21
それから先は数メートル走ったところで視界が黒へと染まり記憶にない。敢えて言うのであれば目が覚めた時に女性が見えた。確かあれは探偵社の与謝野晶子と言ったか。そこから先も良く覚えていない。Aは己の記憶力に感謝をしつつも憎んだ。
「家に帰ったら芥川龍之介くんが居るって怖い…」
完治した状態で自分のデスクへ俯きながら零すと、此処まで運び込んでくれた三人組はうんうんと同情をするかのような声色で相槌を打った。
「あんな場面でそんな芥川くんに愛してあげようかなんて言えるAさんも中々に怖いけどね」
笑いを零しながら太宰の言った言葉にAは顔を顰める。本当に愛してくださいと迫ってきた場合どうしようか。恐らくない。だが一応一つの可能性としては絶望する他無いのであった。
もうひとつ、絶望すべき事がある。それはAが持って来てしまったナイフだ。あれはジャック・ザ・リッパーの確固たる証拠であって、何が何でも見つかるわけにはいかないのであった。さて、処分をどうしようか。下手な事をしたらすぐにでもばれてしまうだろう。
つまり、少しでもAが下手をしたら探偵社を共犯にしてしまうかもしれないのだ。ジャック・ザ・リッパーに脅されていただとか、知らなかっただとか、言い訳はいくつでもある。しかし、この探偵社が人たらしの集まりである事くらい一日で気付いた。もしそれが盛大に発揮されたとき、彼らは嘘を吐く事が出来るだろうか。Aはそれが恐ろしくてならなかった。
自分でやったことながら、懼れていた。
「気に病むことはありません！何回だって芥川と戦ってきたので、僕に任せてください！」
どんと胸を叩いて言う敦に、Aは俯いていた顔を上げる。その堂々とした佇まいに、先程までの敦は何処にもいなかった。実に頼もしい。
「ありがとう敦くん。少し安心したのだよ」
「じゃあ、一旦社員寮に帰ろうか」
「もう暫く画材は諦める事だな」
今度こそ帰宅しようと太宰がAの肩を揺さぶる。画材の運び出しを延期にするのは実に心苦しい事だが、こればかりは仕方が無い。
「帰るのかい？」
「お蔭様で全快なのだよ。ありがとう与謝野さん。こんな時間に力を使わせてしまって申し訳無いね」
壁に寄り掛かりながら首を傾げた与謝野は目をぱちくりさせると笑いながら言った。
「まあ、妾はアンタ達の命を奪う事になっても生かすのが仕事だからねェ」
「とんだナイチンゲール様だ！」
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 40人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
この作品を見ている人にオススメ
「文豪ストレイドッグス」関連の作品
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
左目から鯖味噌(プロフ) - 書けるように頑張りますね。感想ありがとうございました。 (2017年12月27日 11時) (
レス) id: e982473bb6 (このIDを非表示/違反報告)
左目から鯖味噌(プロフ) - 21さん» 有難う御座います。言葉が気持ち悪くないか何度も自問自答していたのですがそう言って頂けて嬉しいです。更にはご本人の方にも興味を持って頂きとても喜んでおります。お金を払いたい位だなんて恐れ多い言葉以外の何ものでもありません。楽しみにして頂けるような作品が (2017年12月27日 11時) (レス) id: e982473bb6 (このIDを非表示/違反報告)
左目から鯖味噌(プロフ) - 七葉さん» コメントありがとうございます。大抵今後の展開を考えない行き当たりばったりの不安定更新ではありますが七葉さんの温かいお言葉のお陰でまだまだ頑張れそうです。これからもっともっと楽しめるお話にしていく事が出来たら幸いです。コメントありがとうございました。 (2017年12月6日 21時) (レス) id: 7e4ff29a97 (このIDを非表示/違反報告)
七葉 - とても続きが気になります!これからどうなっていくかが楽しみですね!更新頑張ってください!応援してます! (2017年12月6日 20時) (レス) id: 88ee75b376 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：左目から鯖味噌 | 作成日時：2017年11月3日 14時
