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子供6 ページ6

「見ろよ、水面に月の道ができてらァ」


晋助兄さんが寝ている部屋に来た。

彼もまた、私と同じく個室を使っている。

鬼兵隊が大きくなってきて、その総督だからという理由もあるのだろう。

ちなみに、銀ちゃんと小太郎兄さんは同室だ。


彼は窓の外の湖を見て、ニヤリと静かに笑った。

私も同じように視線を移すと、満月の光が湖の水面に光の道を作っていた。

綺麗な光景に、思わず目を奪われる。


「来い、A」


名前を呼ばれ、素直にそばに行く。

正座して座れば、晋助兄さんは壁に寄りかかり片膝を立てて天井を見上げた。


「この戦の怒りや悲しみは、どこに消えるか分かるか」


「…え?」


ふうっと、それはまるで息のような言い方。

すぐ消えてしまうような、切ないともまた違う静かな声で言われた。


「実際は消えることはねぇ、己の心に残り続けるってもんよ。けどな、その一時だけは忘れてぇって思う時があんだ、何も抱えず何も考えずにいてぇ時が」


黙ってその先の言葉を待つ。

その時。

急に晋助兄さんが距離を詰めてきた。

そしてそのまま胸を押され、私は床に頭を打ち付ける。

ハッとなった時には、彼は押し倒すように私に覆いかぶさっていた。


「男ってのは、そういう生き物なんだ」


その言動で、全てを察した。

…つまり、彼らは「女の匂い」を漂わせて帰ってきたのだ。

怖くなり、勢いよく晋助兄さんの両肩を押し突き放す。

彼は口角を片方だけ上げ、独特の笑い方で私を追い詰める。


「十六のAにはまだ早ェか?」


「ば、バカにしないで…!私は…私は…!!」


私は…。

今、私は何を考えているんだろう。

どうして息が上がり、こんなにも動揺しているのだろう。

自分が分からなくなり、空気が抜けたように冷静になっていく。


「艶美と呼ばれるくれぇだ、早かねぇか」


チラッと晋助兄さんを見ると、妖艶な目で私を見ていた。

ドキッと心臓が鳴る。

この目だ。

少し前に、彼が言った言葉を思い出す。


____いいじゃねぇか、冷静な艶美。オラァ嫌いじゃねーな

____冷酷なまでに美しい。そういう事だ、A。蝶のように舞う艶美な姿に男達は熱くなるもんだ
※(『子供扱い』抜粋)


そっと親指で私の唇をなぞり、囁かれた言葉。

あの日から、晋助兄さんと私の距離感は少しおかしかった。


「明日早ェんだろ、早く寝ようぜ」


そして、なんとも言えない感情のまま、私は部屋に返されたのだった。

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作者名:お茶 | 作成日時:2019年11月8日 23時

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