翡翠 １９ 番外編 ページ19
夜。
皆を起こさないように静かにテントから出て、こっそり足を忍ばせ集合場所へ。
大きな岩に寄りかかりスマホをいじっていたAに駆け寄る。
「行こか」
「うん！」
すぐにスマホはポケットにしまい、手を差し出してきた。
迷わずその手を取り恋人繋ぎへ変えると、照れたようにはにかむA。
可愛くて仕方ない。
「スマホ何見てたん？」
「今日の写真！みんないい笑顔で映ってたよ」
そういえば、異常にパシャパシャ撮っていたような。
返って現像するらしい。
「あそことかよくない？ほら、ちょうど座れそう！」
Aが指さした先は、空を見上げるにはうってつけの場所だった。
大きめの空間があり、それを取り囲むように木々が生い茂っている。
二人仲良く肩を並べ腰を下ろし空を見上げてみた。
「すっげ…」
「うわぁ綺麗…」
満点の空。
いつも見ていた夜空とは全く違う。
星がもっともっと多く見えて、もっと近くに感じた。
強く光を放っている星や、弱々しく、けれどしっかり光をまとった星。
「届きそうだね」
「…え？」
「手を伸ばしたら掴めそう」
Aの横顔を見つめる。
誰にもバレないように忍び込んだ夜の校舎。
屋上で手を伸ばしたあの時のAと重なって、息を飲んだ。
キラキラと、Aの瞳に星が降る。
そのまま夜空へ連れていかれそうな、少しだけ鼻の奥がツンとなるような感覚になって。
思わずAを抱きしめてしまった。
「ゾムくん？」
「Aがかぐや姫に見えた」
「っふふ、何それー」
「月に連れてかれそうやってん。行かなあかんかったら俺も連れてってや、絶対離れん」
「うーん、ここには皆がいるから簡単に連れてかれたくないなぁ。それにまだゾムくんと思い出作りたいしさ」
「分かった。じゃあ月から来た奴ら殺せばええんやな」
「めちゃくちゃ物騒な話になっちゃったよ」
クスクス肩を揺らし笑うA。
少しだけホッとしたけど、まだ胸の中には不安が宿っていた。
もう離れたくない。
どんなことがあっても、絶対にAの傍から離れたくない。
「また見に来よう」
「…うん、約束な」
交わされた二つの小指。
上下に柔く揺すって、二人だけの約束を呟く。
俺の背中の後ろで震えていた幼きAはもういない。
その代わり、俺の隣で笑ってくれている。
それがこれからもずっと続くように、と。
満天の星空の下、俺はAに優しい口づけをしたのだった。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 492人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
この作品を見ている人にオススメ
「wrwrd」関連の作品
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
名前はまだ無い - 完結させていただきありがとうございました!! (2023年4月5日 23時) (
レス) id: 4665dec082 (このIDを非表示/違反報告)
名前はまだ無い - 数年前の投稿にコメント失礼します。シリーズ全て見させていただいたのですがとても好きです。夢小説としても好きなんですが、シチュエーションから言葉選びまでその場を想像できるような文才に惹かれました。学生を終えてしまった身なのですごく染みます…｡ (2023年4月5日 23時) (レス) @page20 id: 4665dec082 (このIDを非表示/違反報告)
防弾チョッキ（初心者） - お”ぉ”ん”っっずきっっだいずぎっっ (2022年3月28日 15時) (レス) @page20 id: 16da95312d (このIDを非表示/違反報告)
お茶(プロフ) - 桜さん» 桜さん！コメントありがとうございます！！読んでくださり誠にありがとうございました！！ (2020年7月3日 0時) (レス) id: 7f31983ff2 (このIDを非表示/違反報告)
桜 - 番外編完結おめでとうございます！！シリーズが始まった頃から割と見ていたんですが、本当にいい物語です！ (2020年7月2日 23時) (レス) id: 62683d4e75 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：お茶
| 作成日時：2020年5月26日 11時
