笑顔７ ページ7
「え！章ちゃん歌うの！？」
「作曲家なんやけど、歌うのも実は仕事なんやで」
歌手にどのように歌って欲しいのか、明確に伝えたい。
そういう時、自分で歌わないといけない。
それは自分の為でもあるし、相手の為でもあるという。
「じゃあじゃあ、歌って欲しい…な」
「よかったぁ、聞きたないって言われたらどうしよ思ったわ」
ケラケラ笑う章ちゃんに、思わず見とれる。
章ちゃんの笑った顔、好きだなぁ。
「じゃあ、１曲」
章ちゃんはそう言うと、ピックを膝に置いて指で弾きだした。
曲名は、「わたし鏡」
とっても綺麗な声で、女性目線の歌詞を歌う。
歌、すごい上手。
所々に出てくる「愛」というフレーズに、少し泣きそうになる。
「ワガママだけど…はよ会いたい」
最後のフレーズに、ドキッとする。
はよ、会いたい。
そこだけ関西弁で綴られたセリフが、甘く溶けていくようで。
同時に、誰を想って書いた歌詞なのだろうかと、頭をよぎった。
元カノさん、かな。
…別に、嫌だなぁなんて思ってない。
アウトロが終わり複雑な思いを混ぜながらも、笑顔で拍手をする。
「章ちゃんの歌、好き」
素直に思った感想を述べる。
すると、章ちゃんの頬はみるみる赤くなっていった。
「そ、そっか…嬉しいなぁ」
可愛らしい照れ顔に、思わずにやける。
章ちゃんが照れたの、初めて見たかも。
「A、歌ってみいひん？Aの歌聞きたいんやけど」
私がニヤニヤしているのを見て、話題を変えてきた。
「う、歌…？無理無理、普段歌わないし」
「なんでや〜ちょっとでええから、な？」
そ、そんな上目遣いで言われたら…。
恥ずかしいけど、章ちゃんの可愛さに負け、私は有名な「ハナミズキ」を選曲した。
すぐにコードをスマホで検索して、イントロを弾き始める章ちゃん。
き、緊張してきた。
ゆっくりと息を吸い、音を出す。
優しく流れるように聞こえるギターの音は、すごく歌いやすかった。
途中で章ちゃんがハモってくれて、より楽しくなっていって。
結局フルで歌ってしまった。
「…うまない？待ってや、A上手やったんやね」
「褒めても何も出てこないよ」
「本気やで！本気でそう思ってるんやから！」
人に褒められたのは、何年ぶりだろうか。
久しぶりに口ずさんだ歌は、後に章ちゃんとのお箱になってしまった。
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作者名：お茶
| 作成日時：2018年8月6日 22時
