笑顔２１ ページ21
もう、私は素直に章ちゃんに話すようになっていた。
名前は流石に伏せているが、清水先輩の事を。
そんな話をするにあたって、必ず章ちゃんが言うことがある。
「大丈夫、僕がおるよ」
赤の他人だったのに。
私が拾った、ちょっと怪しいお兄さん。
なのに。
こんなに信頼できる、こんなに安心出来る。
こんなに、心が救われる。
もう、好きになる以外なかった。
異性として見てしまった以上、気持ちを止めることは出来なかった。
あれもこれも、全てにおいて章ちゃんの優しさが改めて身に染みる。
日に日に、好きという気持ちが増していく。
「A、ちょっと聞いてくれへん？」
ある日の日曜日。
仕事の疲れからか、爆睡して起きた午前１０時。
起きると、柔らかいギターの音が聞こえリビングに行くと、そんな事を章ちゃんが言ってきた。
新曲が出来れば、必ず一番最初に私に聞かせてくれる。
それが嬉しくて、全く苦ではない。
顔を洗い部屋着に着替え、すぐに章ちゃんの元へ。
「ごめんな、起きたばっかやのに」
「ううん、章ちゃんの歌好きだから平気」
そういうと、頬を赤く染める彼。
そんな反応にドキッとしたのは内緒だ。
彼はアコギのボディーを軽く叩くと、ゆっくりと流れるように歌い始めた。
人と人との出会い。
幸せの定義。
歌詞には、そんなことが綴られていた。
一言では収まりきれない感情が溢れ出そうで。
今の自分に対して書かれた歌詞に思えてしまった。
「どうやった？」
「やっぱり、章ちゃんの歌は好きだなぁ」
頭をかいて、分かりやすく照れる彼。
曲名は、『それぞれの君と』だそう。
惹き込まれていく。
その表現がぴったりだった。
「メロディーすごい好み。どうやったらそんなメロディーが出てくるの？」
「んー…きっと神様がおるんやろうな〜」
大きな黒目を天井へ向け、アルペジオを弾く。
ポロポロンと奏でられるギターの音に、心が安らぐ。
「神様か…いいね、神様」
「せやろ。独占中やね」
表現が子供みたいで可愛らしい。
と思ったら、時々見せる男らしい表情にグッとくるけど。
きっと章ちゃんはカメレオンだ。
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作者名：お茶
| 作成日時：2018年8月6日 22時
