箱庭の海４４ ページ44
放課後。
俺はAの自宅の前に来ていた。
「…」
不安そうにこちらを見るA。
俺は彼女の手をそっと取り、握った。
「行こう」
俺はAの手を引き、歩き出す。
Aも意を決したのか、俺の隣へ追いつき玄関のドアを開けてくれた。
「た、ただいま…」
火曜日。
今日はAの義父さんがいる日。
Aが弱々しく言葉を発すると、奥のドアから一人の男が現れた。
俺と同じくらいの身長だろうか。
少し明るめの茶髪、優しそうな細い目、口元のほくろ。
「A、おかえり。隣にいるのはどなたかな？」
Aに満面の笑みを浮かべ、俺に視線を移す。
一瞬で凍った表情に、確信を持った。
「Aさんとお付き合いさせていただいてます、坂田銀時です」
凛とした声で、俺はすぐ頭を下げた。
Aは俺の行動を察し、一緒に頭を下げた。
張り詰めた空気が肌に刺さり、隣のAから緊張が伝わってくる。
けど俺は、なぜか冷静だった。
「彼氏、ねぇ…。そんな話し、聞いてないなぁ」
俺とAがそっと顔を上げると、そこには冷酷な笑みを浮かべた義父さんの姿があった。
「いつ？誰の許可を得て付き合ったんだ？え？こんな無能そうな男、よく連れてきたな」
口調が変わった。
目は血走り、拳を強く握っている。
初対面の俺によくそんな暴言吐けるな。
尊敬するレベルだぜ、それ。
溜息をつき、反撃をしようと口を開きかける。
すると、隣で体を震わせていたAが、声を荒らげた。
「悪く言わないでよ！！私の大切な人を悪く言うな！！」
初めて聞く、Aの声。
掠れ、怒気のこもった声音は、悲鳴にも聞こえた。
義父さんも驚いたのか、少し顔を引き攣らせる。
その時、奥から誰かが顔を出した。
「大きな声出してどうしたの…？あら、Aおかえりなさい」
Aの母親だ。
…綺麗な人だ、とても。
Aの眼とよく似ている。
「私の彼氏連れてきたの。リビングに行ってもいい？二人も来て欲しいんだけど」
落ち着いた様子のAが、そう言う。
普段と違う雰囲気の娘の異変に気づいたのか、母親はすぐに俺を通してくれた。
後から義父さんも足を進め、椅子に座る。
机を挟みAの両親が真正面に座り、Aは俺の手を握った。
頷き握り返すと、少しAは笑う。
俺は、意を決して目の前に座る二人を真っ直ぐ見つめた。
「Aさんは、その男から虐待を受けています」
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作者名：お茶
| 作成日時：2019年4月10日 1時
