箱庭の海41 ページ41
「さ、坂田くん!?」
腕の中のAが驚いた顔で叫ぶ。
周りから黄色い歓声が上がり、口をあんぐり開けた美波先輩も見えた。
次々とゴールする中、俺達は何とか上位五位にはくい込む事が出来た。
息を切らしながら、Aを下ろす。
そして、Aの手を引きながら、放送場所へと歩く。
「マイク貸してください」
「え!?あ、ちょ、ダメですって、あっ!」
放送委員から無理やりマイクを奪い、Aの手をギュッと握る。
「あー…全校生徒に告ぐー。俺が手を握ってるこの人、大切な人なんで誰も近寄んなよ。あと、そこにいる厚化粧ヤリ〇ン先輩、俺あんたみたいな女やっぱ無理っすわ。自分になら何してもいいんで、傷つけんなら俺にしてください」
シーンっと静まり返った全校生徒。
周りにいた教員達も固まっている。
俺は面倒くさくなった全てを吐き出せて、スッキリしてしまった。
「あ、あとな、数学教師田村先生、それと沖田総悟。Aは俺が守るんで安心してください」
熱を込め、そう言った。
振り向いてAを見れば、顔を真っ赤にし目に涙を溜めていて。
優しく笑ってやると、Aは眉を八の字にさせた。
「何言ってるの…」
「本心」
マイクを元の場所に戻し、何事も無かったかのように俺達はテントの外に出る。
途中で何人もの教員に怒られたが、全てを無視した。
俺とAはそんな体育祭開場から出ていき、誰もいない校舎へ足を進める。
「った…」
廊下を歩く途中、Aが小さく声を出す。
ドレスの中で見えないが、捻った足がまた痛み出したのだろう。
「悪ぃ、無理させたな。どっちがいいっすか、おんぶかお姫」
「おんぶがいいです」
食い気味でそう答えられたので、相当恥ずかしかったのだろうと苦笑する。
俺はその場でしゃがみ、背中をAに向けた。
「うーい、乗ってくださーい」
純白の王子様衣装。
裾は砂まみれで汚れていて。
これは…クラスの子にどう謝ればいいか分かんねぇな。
そんな事を頭の隅で考えていた。
と、いくら待ってもAが乗ってこない。
おかしく思い、俺は振り向く。
「そんなに嫌だったか?ならやっぱお姫様抱っ…」
振り向いた瞬間。
俺の唇に、なにか温かいものが触れた。
俺の右肩にそっと手を置き、優しく首を傾け触れたその唇。
「…告白したい人、なんだよね?」
ゆっくり離れた彼女は、目を細めた。
68人がお気に入り
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名:お茶 | 作成日時:2019年4月10日 1時