箱庭の海5 ページ5
雨は弱くなる事はなく、降り続けた。
このまま下校するのは気が引けた俺は、人気のない屋上へ続く階段へと向かった。
すると、階段のそばまで来て登ろうとすると、話し声が聞こえた。
思わずしゃがみ隠れ、耳を澄ます。
「A…」
「大丈夫だよ、慣れてるから」
Aって、桜田か?
チラッと覗けば、階段に座り数学教師の田村 光輝と桜田が話しているのが見えた。
放課後に生徒と二人で何やってんだあのイケメン教師。
奴の歳は俺たちと近く、女子生徒の人気が高いらしい。
俺のクラスの数学担当教師は違うので、俺は関わったことがないから詳しくは知らないが。
「僕は頼ってほしいよ。Aは自分の事をもう子供じゃないって言い張るけど、僕にとってお前は…」
「分かった。ごめんね、次からはちゃんと言う」
優しい声音だった、二人とも。
それはまるで恋人同士のようで。
…どういう関係なんだ、そう疑うしかなくなっちまうぞ。
教師と付き合ってる、と。
その時だった。
俺のスマホの通知音が大音量で鳴った。
慌てて止めたがもう遅い。
階段を駆け下りる音が聞こえ、止まったと思ったら俺を見下ろす桜田が立っていた。
「や、あの、これは」
ここにいることの言い訳をしようと口を走らすが、遮られる。
「貴方…。最近なんなの?私の名前出してクラスに来てるみたいだし、関わらないでって言ったのに。私何かした?それともまた…」
また…?
うんざりした様子で話していたのに、目を伏せ悔しそうな表情になった桜田。
やめろよ、その顔。
こっちまで胸糞悪くなる。
なんで俺がこんな気持ちに…。
「こんにちは」
桜田の後から降りてきた田村は、俺に微笑みかける。
ふわっと女のような笑顔を見せる田村に、何故か俺は苛立ちを覚えた。
「君、A組の坂田くんだよね。この学校では有名人だから顔見ただけで分かったよ」
田村がそう微笑むと、桜田は眉間に皺を寄せた。
「こんな奴が有名なの…?どういう事それ」
こんな奴、だと。
女が俺に対してそんな口の利き方した事ねぇぞ。
ほんと気に食わねぇやつだな桜田 A。
「で、君はここで何してるの?」
田村はキョトンとした顔で首を傾げた。
相変わらず桜田は俺を睨んでいる。
「桜田さんに用があったんすよ。聞きたいことがあって。でも二人っきりじゃないと話せねぇから、今日は帰りまーす」
俺はサッと立ってお辞儀し、直ぐに背を向け帰った。
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作者名:お茶 | 作成日時:2019年4月10日 1時