箱庭の海32 ページ32
「…先輩とつるんでる」
結局出たのは、情けない声だった。
上手い言い訳も出来ず、目線を落とす。
Aの顔が見れねぇ。
「そっか…。分かった」
何か諦めたような気の抜けた声音。
思わず顔を上げれば、聞きたくなかった、と。
そんなAの目とぶつかった。
咄嗟に手を伸ばし、Aの腕を掴む。
「待てよ、俺は本当にお前と」
「大丈夫、分かったから」
俺は一体、何を口走ろうとしていたのだろう。
だがそんな俺の言葉も拒絶され、腕を振り払われた。
全てを悟ったようにAは目線を下ろすと、走って行ってしまった。
…何してんだ、俺は。
少し考えれば分かるじゃねぇか。
今までAが人と関わってこなかったのは、自分が脆く繊細だから。
小さな出来事で左右されやすくなってしまったから。
そして一番の理由は、人を信頼できねぇからだ。
ちゃんと丁寧に説明しなきゃダメなんだよ。
じゃねぇと伝わんねぇんだよ。
けど、美波先輩をどう説明したらいい。
お前を守りたいから美波先輩とつるんでる、なんて言えるわけがない。
そんなことを言ったら、余計あいつは俺を庇い傷つくに決まってる。
私に関わらなければこんな事にはならなかった、と。
だったら隠している方がマシだ。
けど…
多分あいつは、俺への信頼が崩れた。
「んで上手くいかねぇんだよ…」
悔しくなり、前髪を掴む。
どんなにAの事を想ってても
俺が過去に犯した過ちはそれを許してくれない。
上手くいくな、失敗しろと。
いつまでも俺自身が首を絞めてくる。
ふと、随分前の土方の言葉を思い出した。
________いつまでもそうして女引っ掻き回してっと本当に好きなやつが現れたとき後悔するぞ
ほんとだな、全く…。
グルグルと頭の中でAの事を考えていたら、いつの間にか放課後になっていた。
美波先輩にクラスで待っていろと言われた俺は、大人しく自分の席に座って全員が出ていくのを待っていた。
時計の針が刻々と進む。
最後に残った土方が、悔しそうな顔で俺を見る。
「何かあったんじゃねぇのか」
「…これからあるところ」
こいつなりに心配してくれているのだろうか。
遠回しの優しさに上手く応えることが出来ず、軽くあしらう。
「ダチだとは思っちゃねぇが、お前は俺のクラスメイトだ。何かあったら言えよ」
そう言うと、クラスの委員長様はご帰宅なさった。
急に優しくすんな、気持ち悪ぃ。
68人がお気に入り
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名:お茶 | 作成日時:2019年4月10日 1時