箱庭の海31 ページ31
「そうなんすね」
苦笑いで返せば、つまんなそうに頬を膨らます。
「なぁに可愛くないよ銀時くん」
あざとい。
隣にいる香水おばけのせいで、自分が何を食ってるのか時々分からなくなる。
何だこの強い匂いは。
中学の頃の国語教師がこんな匂いだった気がする。
香水臭いとクラスの連中から、いつも非難を浴びていた。
…Aは洗剤の匂いだったな。
抱きしめた時、鼻を掠めた太陽の香りが心地よくて。
細い腕や腰は折れそうだった。
小さくて、俺の胸にすっぽり収まって。
離したくないって、そう思っちまうような…。
「ねぇ聞いてるぅ?」
「え、あ、すいません。なんの話でしたっけ」
「だからぁ、体育祭!なんの種目に出るのか!」
「あ、あぁ、体育祭…」
気づいたらAの事を考えていた。
全く話を聞いてなかったみたいだ。
その後も俺は美波先輩と会話を続けた。
けど、ずっと上の空だった俺に美波先輩は呆れる。
「放課後、帰らないでね」
最後に教室で待ってろと、そう言われてしまい、彼女は自分のクラスへと戻った。
マジかよ…。
ため息をつきながら廊下を歩く。
誘われたりなんかしたら、俺は断れるのだろうか。
めんどくさい事になった。
そう考えている時、廊下で溜まっていた女子達に声をかけられた。
「ねぇ坂田くん、Aさんが探してたよ」
「は!?ま、まじ!?どこ行ったあいつ!」
「あ、え、っと…確か屋上付近の階段?にいるみたいなこと言ってた気がする…」
「サンキュ!!」
Aが俺を…?
こんな嬉しいことはない。
分かりやすくテンションが上がった俺は、急いで目的地に向かう。
途中すれ違った女子達に声をかけられたが、ガン無視で走る。
徐々に人気がなくなり、息を切らしながら着いた。
階段に体育座りでこちらを見るAの姿がそこにあって。
細く白い腕で膝を抱えていた。
「遅いよ坂田くん」
「はぁ…はぁ…わ、悪い」
息を整え、隣に座る。
「どうした?」
「…坂田くんさ」
トゲのある声。
久しぶりに聞く、Aの牽制した声。
思わずジッと見てしまう。
な、なんだ…この異様な空気は。
「また女の子と遊んでるって、本当?」
小さな声で、そう言われた。
信じたくない、とでも訴えているような。
何も言えず固まる。
喉につっかえて言葉が出ない。
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作者名:お茶 | 作成日時:2019年4月10日 1時