箱庭の海27 ページ27
「Aが男の誘いに乗らなくなったのは、アンタのおかげですかねィ」
紙パックの中身をチューっと吸う沖田総悟。
俺の机の上に座り、俺を見下している。
厳密に言えば上履きのまま机に乗っかっている。
それう〇こ座りって言うんだぜイケメン君よ。
「はぁ…お前さ、俺の事なんだと思ってるわけ?」
放課後の教室で腕を組み一人寝ていた。
パッと目を覚ますと、目の前に沖田総悟がいた。
紙パックの中身はりんごジュースだ。
「見直したんでさァ。なんでィ、褒めてやってるのにその態度ですかィ」
死んだ目でチューっとまた液体を喉に通す。
コクコクと女のような喉を鳴らした。
「なんで俺だって分かんだよ」
「Aが関わりを持つとしたら、俺か田村かアンタだ。半ば諦めてた俺らは説得するのもやめたところだったんでィ」
消去法で俺ってわけか。
二人は、見捨てるわけにも、見逃すわけにもいかない関係の狭間で揺れていたんだろう。
結果、後者を選んだ様だが。
ふわふわと、掴みどころのない声音で話していた沖田。
ズズズっと紙パックの中身を飲み干す。
すると
急に殺気を纏い、勢いよく俺の胸ぐらを掴んできた。
ストローを荒く噛み、鋭い眼差しを向ける沖田。
「どんな手を使った。あいつを傷つけるようなことしたんなら殺す」
「…話しを聞いただけだ」
冷静に落ち着きながら、そう言葉に出す。
少し間が開き、奴は手をゆっくりと離した。
「話、ねィ…じゃあアンタは、Aの事を知ったんですかィ」
縦に頷くと、沖田は自身の前髪を強く掴み握った。
ぐしゃっと潰し、力を込める。
「俺は、Aの彼氏だったんでさァ」
「…は?」
なん、だそれ。
驚きを隠せず、口がぽかんと空いてしまう。
チラッと俺を見た沖田は失笑した。
「中学の頃でさァ。俺は呑気に、惚れたやつと付き合えると喜んでた。けどあいつは苦しんでたんでさァ。俺が知らねぇところで、たくさん泣いてたんでさァ。気づかなかった、気づけなかった、助けてやれなかった俺を、あいつは責めなかった」
沖田は悔しそうに歯を食いしばると、拳を振り上げ俺の顔面でそれを止めた。
殴り掛かる寸前で、沖田は自分の手をおろした。
「んでてめぇが…!!」
涙声に近かった沖田の声は、震えていた。
68人がお気に入り
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名:お茶 | 作成日時:2019年4月10日 1時