箱庭の海18 ページ18
顔面に二発。
腹に三発。
腰に一発。
ってとこか、俺がくらったのは。
次の日の朝、登校しながらそんなことを考えていた。
昨日の喧嘩の事だ。
あんなバカみたいな男が、Aの周りにうじゃうじゃと群がってる。
そんなヤツらを律儀にAは相手にしていた。
ってこと、だよな…。
なんでそんなこと。
下駄箱に着きローファーから上履きに履き替えていると、ちょうどAも登校してきた。
「はよ」
声をかけると、Aはペコッと頭を軽く下げる。
「うん」
んだよ素っ気ねぇな。
そのまま俺の横を通り過ぎようとするので、思わず腕を掴んで止める。
「な、なに…」
「顔面の怪我、心配してくんねぇの?」
喧嘩のことはバレたくねぇが、怪我の心配はされてぇってのは気持ち悪いですかね。
仕方ねぇだろ、こいつスルーしようとすっから。
「い、今気づいた…どうしたのそれ、大丈夫?」
出会った当初なら考えられねぇこいつの心配そうな眼差し。
そっと俺の右頬に手を添え、睫毛を震わせた。
「お、おう…」
急に近くなった距離に動揺する。
けどAの目は逸らされず、俺の瞳の奥まで覗きこまれた。
深海、綺麗な深い青色をした瞳に。
「手当、自分でしたの?」
「あ、やー、まぁ…そんなとこ」
口が裂けても朝会った隣のクラスの女子とは言えねぇ。
傷だらけの顔で登校していたら、三人の女子達に群がられ勝手にぺたぺた貼られた。
「授業、サボろう。保健室に行って絆創膏とか消毒液とか貰いに行こう」
咄嗟に頷くと、Aは俺の手を掴んで歩き出した。
おいおい、優等生なんじゃねーのかよAさんよ。
頭いいって評判よかったのに、朝から授業サボろうぜなんて。
…これは、自惚れていいのだろうか。
保健室に着くと、保健室の先生はいなくドアにかかっている札に「職員室にいます」と表記されていた。
「勝手に触っちゃまずいかな」
「いいんじゃね。怪我人優先しようぜ」
腰が低いAを横目に、適当にソファに座る。
Aは遠慮がちに棚を物色し始め、手当てに必要なものを手に取った。
俺のそばまで来て、乱雑に貼られた絆創膏を剥がしていく。
「鏡見てちゃんと貼ったの?雑すぎる…と思うけど」
「男はみんな不器用だっつの」
俺だったらもっと丁寧に器用に貼れるわ。
口から出そうだった言葉を飲み込み、優しく貼り直してくれたAの手をじっと見つめていた。
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作者名:お茶 | 作成日時:2019年4月10日 1時