箱庭の海16 ページ16
俺は昼休み、すぐにAのクラスへ向かった。
「A!!」
名前を呼ぶと窓際の席の彼女はビクッと反応し、俺を凝視する。
クラス中の視線が俺に集まる。
「ちょっと来い!!」
ズカズカと教室に入り、座っているAの腕を掴む。
無理やり立ち上がらせ、強引に連れ出した。
「さ、坂田くん!!」「どうしたの!?」
他の女子にそう声をかけられたが、無視して廊下を進む。
「何してるの…」
連れられている本人は少し怒った声で歩く。
「嘘だよな、あの噂」
俺は彼女の顔を見ないで、前を見ながらそう聞いた。
返事は返ってこない。
黙り込んだ彼女の手を引き、歩き続ける。
そして階段を登り、屋上のドアをこじ開けた。
「な、なんで開くの…」
「無理やり手突っ込んだら開いた」
立ち入り禁止で施錠してあった屋上の扉は、壊れかけていた。
なんとかしたら開くんじゃないかと試しに手を突っ込めば、容易く開いてしまったのだ。
ドアを開ければ夏の日差しが飛び込んできて、俺たちをジリジリと照らした。
汗がじんわりと浮かんでくる。
けどAの手は冷たいままだった。
手を離し彼女と向き合い、真っ直ぐ眼をみつめる。
「お前の口から聞きてぇ、嘘だよな」
夏風が俺たちの間を通り過ぎる。
その生暖かい風が、彼女の髪を揺らした。
覗かせた瞳には涙が滲んでいて、今にもこぼれ落ちそうだった。
「う、そ…嘘だよ…信じてくれるの…?」
自分を押し殺した声。
耐えきれず、俺はAを抱きしめた。
「あたりめぇだろ。なんでそんな噂信じなきゃなんねぇの」
「…うん」
小さく腕の中で頷き、静かに泣いたA。
俺はこの瞬間、こいつを守りてぇと思った。
この強がりな女を。
「でも…一緒にいると坂田くんまで変な噂立てられちゃうよ」
「そんなの昔から慣れてるっつの」
涙が引っ込んだAから距離をとり、親指で涙の跡を拭く。
目を細め、傷ついた顔で俺を見たAは今にも壊れそうだ。
「じゃあAは俺の嫌な噂知ってんのかよ」
ちょっと笑って言ってみせると、Aはさらに不安そうな顔になる。
「あ、あるの?」
「ま、こんだけ顔がよけりゃ噂なんてたくさんあるわな」
「…何言ってるの」
「いやここは笑うとこなAちゃん」
もっと、Aの内側を覗きてぇ。
俺が守りてぇ、こいつを。
68人がお気に入り
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名:お茶 | 作成日時:2019年4月10日 1時