箱庭の海１４ ページ14
俺は桜田の前の席に座り、話がしたいと持ちかけた。
すると桜田はつけていたイヤホンを外し、しっかり俺と向き合ってくれた。
「俺、さ」
今まで冷たく避けられていたから、素直に話を聞こうと頷く桜田の姿にまだ違和感がある。
だから、上手く言葉が出てこない。
息をのみ意を決して、俺は思いをぶつけてみようと口を開いた。
「桜田さんと仲良くなりてぇんだけど」
目をギュッと瞑り返事を待つ。
けど、なかなか返ってこないので恐る恐る目を開いた。
窓から風が吹き込み、桜田の髪を揺らす。
髪の隙間から見えた桜田の瞳の色は、濃く青く、深く、深海のようで。
その瞳は、大きく見開かれていた。
「…君はどうしてそう思うの」
けどその目は萎んでいき。
桜田は俯き弱々しく、そう声を出した。
「お前の事が知りてぇから」
ポロッと出た言葉に嘘はない。
本音だ。
「なんか、変な人なんだね、坂田くんって」
すると、今度はクスクスっと声を弾ませ笑いだした。
変な人だ？んだそれ。
全然嬉しくねぇな。
わざとしかめっ面をしていると、桜田は手を差し出してきた。
「苗字で呼ばれるの嫌いだから、下の名前で呼んで。Aって」
「…A」
下の名前で初めて呼んで、少しくすぐったかった。
躊躇いながら差し出された手に自分の手を重ねると、優しく握手をされた。
チラッとAを見ると、長いまつ毛を揺らしていた。
そして俺達は、部活動が終わるまで話していた。
お互いの噂話や評判の話は一切せず、自分の情報を共有し合うだけだった。
けどそれでも、俺は楽しかった。
俺たちの居る教室の一角が、別の世界へと切り離されているような感覚で。
俺たち以外、何も存在していなかったような。
そんな時間が流れたのだった。
最終下校時刻が迫ってきたので、俺達は帰ることにした。
教室の鍵を閉め、荷物を持つ。
そして俺はAと一緒に鍵を返しに、職員室のドアを開けた。
そこで、まだ職員室で作業をしていた田村と目が合う。
Aは田村の席まで歩いていってしまったので、俺は教室の鍵が管理されている場所へ足を進めた。
そっと聞き耳を立てる。
「坂田くんと一緒にいたんですか？」
「そうです」
「気をつけて帰ってくださいね」
お互いに敬語を使っていたが、二人の言葉には温度があった。
暖かい温度が。
…キリッと胸が痛んだ気がした。
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作者名：お茶
| 作成日時：2019年4月10日 1時
