彼と彼女の宝物の話【M.A】 ページ31
雅紀くんと結婚して。
私たちは一緒に暮らすようになったけど、私は相変わらず美容師の仕事を続けていたから。
Siestaにはまだお客さんとして行く方が多かった。
たまに洗い物やお店の掃除くらいは手伝っていたけど。
今日も仕事終わりに路地をいつものように走りそうになって、少しスピードを緩めて歩く。
深緑の扉を開けると。
「いらっしゃいませ」
大好きな人が子どもみたいに笑って、待っていてくれた。
「お仕事おつかれさま！」
「お疲れー」
カウンターにはニノくんもいる。
私の顔を見たら時計をちらっと見て立ち上がる。
「じゃーね、俺行くわ」
「え？もう？」
「花のレジ締め手伝うから」
「あ、そっか。花さんによろしくね」
「はいはい。お前も相葉さんをよろしくね」
「別にニノによろしくされなくてもいいし！」
ニノくんは手をひらひら振るとお店を出て行った。
もう閉店間際だったから、ニノくんが帰るとお客さんはいなかった。
「Aちゃん何か食べる？梅酒ソーダ飲む？」
雅紀くんが優しい声で聞いてくれる。
「ナポリタン食べようかな。梅酒ソーダは……今日はやめとく」
「おっけー！」
雅紀くんが手際よくナポリタンを作るのをカウンターで眺める。
少し骨ばった長い指が器用に包丁やフライパンを操ってる。
「あのさ、雅紀くん」
「うん？何ー？」
「ちょっと話が……」
その時、深緑の扉が開いて、よろよろ大野さんが
入ってきた。
「……腹、へった…」
「おーちゃん！締め切り終わったの？」
「まだ」
「……え。大丈夫？ここ来て」
「わかんねーけど。なんか食わせて」
「あ、そのナポリタン先に食べていいよ」
思わず私がそう言うと、ふわって笑う大野さん。
「ありがと、ありすちゃん」
そう言うとすごい勢いで雅紀くんがカウンターに出したナポリタンを平らげた。
「ふー、生き返った」
「ちゃんと帰って原稿描いてね」
「腹いっぱいになると眠くなってきた」
「だめだめ！松本さん来るよ！」
大野さんをぐいぐい引っ張って帰らせると、雅紀くんが戻ってきて言う。
「そういえば今日翔ちゃん先輩とアキちゃんと薫ちゃんきたよ！」
「そうなんだ！最近会ってないなあ、薫ちゃんおっきくなってるんだろうなあ」
「おしゃべり上手になってたよ。まさきくんしゅきーって言われた」
そう言って嬉しそうに目を細める。
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作者名：つむ
| 作者ホームページ：
作成日時：2018年9月22日 8時
