日日是五色【ARS】 (ページ4)

今日:2 hit、昨日:7 hit、合計:223,638 hit

STAND BY ME 【S.O】ページ4

「今日智くん一緒に来るんだって」

母の言葉に、へえ、そう、と興味なさそうに返事した私は、何食わぬ顔で自分の部屋まで戻ると急いで部屋着をぬいだ。

「何着よう、家だし」

シンプルなロング丈の黒いワンピースに、ナチュラルメイク。

ピンポン、とインターフォンが鳴る音が小さく聞こえて、私の胸も、とくん、と小さく鳴った。

智くんのお母さんと私の母は大学時代の親友で、卒業以来、年に一、二回必ず会っている。

母は家に人を呼ぶのが好きな人で、会う場所は大抵我が家だった。

初めて会った時、智くんはまだ赤ちゃんで、私は小学5年生。

兄弟がいなかった私は、小さな赤ちゃんが珍しくもあり、可愛くてたまらなかった。

「オムツかえてあげる！」

そう言ってはりきってお世話をしたがる私を、智くんのお母さんは喜んで何でもさせてくれた。
ミルクも離乳食もあげたし、抱っこもおんぶもした。

私が保育士という仕事を選んだのはそのことがきっかけだったのかもしれない。

私が中学生の頃、智くんは幼稚園。

私が大学生の頃、智くんは小学生。

「Aちゃん、遊ぼ」

そう言って私のあとをついてまわっていた智くんは、中学生になると来なくなった。

母たちは変わらず年に一、二回は会っていたけど、私も就職して仕事に恋愛に忙しく、家にいないことも多かった。

半年前、6年ぶりにお母さんと一緒に来た智くんにたまたま家にいて会った私は、内心とても驚いた。

あの頃の面影はあったけど、通った鼻筋といいＴシャツの袖からのぞく引き締まった筋肉といい、見違えるくらい男っぽくなっていたからだ。

「Aちゃん、ひさしぶり」

そう言って笑う智くんに、私も、久しぶりだね、って笑った。

内心動揺していたけど、そんなことはおくびにも出さず。

「いくつになったの？」

なんて、余裕のある大人の女ぶった言い方をした。

「18。もうすぐ高校卒業する」

18、かあ。

「若いなあ」
「Aちゃんは？」

私が思わず言葉につまると、お母さんが横から口をはさんだ。

「この子もう29歳よ。いつになったら結婚するのかしらね」
「お母さん！余計なこと言わないでよ！」

智くんはちょっと困ったみたいに、んふって笑った。

結婚はしたいし子どもも欲しい。

だけどその日から、智くんのことが頭のすみっこから離れなくて。

付き合ったりできるわけないってわかっていたけど離れなくて。

半年が経って、私は30歳の誕生日が近づいていた。