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「ああ、嫌だなあ」
「何が？」
放課後、来週の予定を確認していて、職員室で思わず言ってしまったのを、となりの席の藤井先生に聞かれていた。
「来週学内研修でうちのクラスの授業視察されるんです」
「あー……嫌だよね。やつら重箱の隅つつくみたいに細かい粗探しばっかしてくるからね」
普段と同じように授業をすればいいだけなのだけど、苦虫を噛み潰したようなお偉いさんが、ずらっと教室の後ろに立つと、それだけで変な汗をかく。
教師という職業をしているくせに、人前で話すことが実はあまり得意ではない私。
はああ、憂鬱。
「A先生、A組まだ電気ついてましたよ。
文化祭の準備だと思いますけど、そろそろ帰らせてください」
「はい、すみません。確認してきます」
学年主任に言われて、立ち上がる。
うちのクラスは男女が入れ替わって男子がメイド、女子が執事の格好をする喫茶店をすることになっていた。
きっとみんなでワイワイしながら衣装やら装飾やら作っているんだろう。
3年A組の教室の前まで行くと、確かに廊下に明かりがもれているけど、想像していたより静かだ。
電気を消し忘れただけで誰もいないのかな？
と思いながらガラッと戸を引く。
中にいた生徒は二人だけで、こちらをぱっと振り返った。
委員長の相葉くんと副委員長の川嶋さんだ。
「文化祭の相談？」
「……はい、そうです」
相葉くんは返事をしたけど、川嶋さんは俯いている。
あら？
もしかしてお邪魔だったかな？
「熱心なのはいいけど、そろそろ帰りなさいよ」
「はい」
今度は二人そろって返事をしたけど、川嶋さんは私と目を合わそうとしなかった。
二人が並んで帰って行くのを見送って、教室の電気を消すと戸を閉めた。
付き合ってるのかな、あの二人。
誰と誰が付き合ってる、ということは聞いてなくても誰かが教えてくれたりするし、雰囲気でわかったりもする。
だけど相葉くんはあまりそういう噂を聞いたことがなかった。
へえ、相葉くんああいう子タイプなのかあ。
確かに川嶋さんはハキハキしたいい子だけど。
だけど……？
なんとなく相葉くんとは合わないような。
「何小姑みたいなこと考えてんの。だいたい知らないだけで川嶋さんじゃなかったとしても相葉くんなら彼女の一人や二人いるでしょ」
モテないはずがない。
きっと相葉くんのことだから彼女にも優しくて、清く正しいお付き合いをしてるんだろう。
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作者名：つむ
| 作者ホームページ：
作成日時：2018年9月22日 8時
