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翌日。
日課のコーヒーを、豆が切れているから、という理由で入れなかった。
豆が切れそうなのは本当だし。
翔は、特に何も言わなかった。
「りりちゃん！着るわ、えろかわいいの！」
と、鼻息荒く宣言した私に、りりちゃんがにっこり笑ってドンキの袋から差し出したのは、ピンクのナース服だった。
しかもミニ。超ミニ。
「いやあ、これはちょっと。ただただえろいだけでは。しかも私足出せない」
「絶対似合いますよーう！」
とりあえず保留にして、家に持って帰った。
ドンキの袋に入れたままクローゼットにしまう。
面と向かって喧嘩したわけじゃないけど、なんとなく翔と顔を合わせたくなくて、早めにご飯とシャワーを済ませて、翔が帰って来る前に寝てしまった。
夜中に気配がしてうっすら目を開けると、翔が出張の用意をトランクに詰めている。
気づかないふりをして、布団をかぶる。
次の日、目が覚めたら翔はもう家を出たあとだった。
・
その日も働いているカフェは大盛況で、私はくたくたに疲れていた。
いつもと同じように足を引きずって帰ってくると、自分の部屋を見上げて気づく。
そうだ、翔は今日から1週間いないんだった。
その事実に、得体の知れない寂しさがお腹の底からじわじわとわいてくる。
階段を上る気力がなくなって、その場に思わずしゃがみこんだ。
と、スマホがブルブル震えた。
翔からだ。
「……しもし」
「お疲れ」
「……うん」
「帰って来る頃だと思って」
「……帰って来たけど」
翔がいないよ。
「何泣きそうな声してんだよ」
「してない」
「してます」
「してない」
「俺はなんとなく調子出なかったわ」
「え？」
「朝、お前とコーヒー飲まねーと」
ずるい。
ずるいなあ、翔は。
「私もさっき思った。疲れて帰って来て、家事全然してくれなくても、頭の中仕事のことしか考えてなくても」
「なぜディスられてる」
「翔がいないと寂しいよ」
細い三日月が空に浮かんでる。
「あ！そうだ、お前あれ着んなよ？」
「へ？何？」
「クローゼットの中にあるナース服」
「あ！あれはハロウィンのネタ…」
「着んなよ？他のヤツに見せんな」
そんなタイミングで翔のスマホに別の着信。
「出ていいよ。また帰って来たら話そ」
「悪い」
「ううん、おやすみ」
「好きだよ」
ぷつん、と電話は切れた。
「だから！ずるいってば！」
仕方ないな。
明日買いに行ってやるか。
翔のいちばん好きなコーヒー豆。
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作者名：つむ
| 作者ホームページ：
作成日時：2018年9月22日 8時
