【被虐のノエル】愛したい、愛せない【フーゴ・ドレッセル】 (ページ29)

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#23 叶わない中編ページ29

……人を助けたいなんて、どの口が言ったのかしらね。所詮、私は自分の命が可愛いだけの箱入り娘だったの。本当に人々を救いたいなら、自分の命を犠牲にしてでも、危ないおくすりの製造をやめればよかったのにね。

私が作ったおくすりで、たくさんの人が傷つき、死んでいった。
最初は辛いと思ったけど、だんだん麻痺していったわ。
フーゴさんについてるあなたならわかるかしら。……A？そう、Aさんって言うのね。じゃあ、そう呼ばせていただくわね。

Aさんもわかるでしょう？人を傷つけることに対しての罪悪感の麻痺。自分の幸せを優先することに対して、躊躇いを感じなくなる……。自分が狂人に身を染めていく、酔ったような感覚。

私のそれは、仕組まれたものだった。

そして、おくすりで人を殺しはじめて、3年経った頃。
私は、大きなミスを犯したの。

研究所内に、有害ガスが充満した。
分解のおくすりを調剤している時だったわ。加熱装置が止まらずに、水薬のそれは全て蒸発したの。
気体へと状態変化したそのおくすりは、吸い込めば内臓に障害が生まれ、呼吸困難に陥る。長時間体内に取り込み続ければ、最悪死に至る毒ガスだったの。

異変に気が付いた私は、急いで皆を避難させたわ。でも、そのせいで私だけ逃げ遅れてしまったの。
苦しい、息ができない、頭が痛い。
気を失った私は、なんとか救助されて、一命をとりとめた。

その一件以来、私の周囲の状況は少し変わったわ。
私にはもっと危険なおくすりを調剤してほしい。でも、天才と呼ばれる重要な人材を失いたくはない。そんな葛藤が目に見えたわ。

そして、それは私も同じだった。
もっと危険なおくすりを調剤しないと、いつか使い捨てられ、殺される。
でも、こんなことを繰り返していたら、いつかおくすりのせいで死んでしまう。

もっと。もっともっと。
もっとおくすりを作らないと。
もっと人を殺さないと。
じゃないと。

＿＿私が、死んじゃうでしょう。

例えば、私がおくすりの影響を受けない人間だったら。
例えば、私が悪魔と契約して人間をやめたら。

例えば、私が薬剤師をやめて殺人兵器になれたなら。

それが、私が悪魔との契約を望んだ理由。