【被虐のノエル】愛したい、愛せない【フーゴ・ドレッセル】 (ページ26)

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#20 逃げないページ26

……これはまずい。
いくら炎に焼かれない身体を持つフーゴでも、この薬品に触れれば無傷とはいかない。
それに、私が意識を失っている間にアメリアと戦っていたのだろう。彼はかなり弱っている。溶けかけたガスマスクが戦いの凄惨さを物語っていた。
彼が戦う準備をしてきていればアメリアに後れをとることはなかったかもしれない。でも、今日の任務は一方的な爆破だけ。警備を突破する力は用意していても、魔人と正面衝突する戦力までは用意してなかったのだろう。

それに比べて私の方はまだ余力がある。負傷は最初に背中にくらった一撃だけだし、大火傷を負うことを覚悟で爆破すれば拘束を解くくらいはできるだろう。

『フーゴ！私は大丈夫よ。……爆熱の魔人様が手下なんかのために命を削るわけ無いわよね？』

お願いだから、逃げて、フーゴ！
そんな言葉にすることのできない叫びは、彼に届くことはなく。
フーゴは、私たちのいる階に繋がる壁の突起を掴み、足をかけて登り始めた。

『何してるの！？私は自力で逃げられる！あんたそんなに息が荒いのに、登りきれるわけ無いでしょう！？』
「るっせぇ……！なめんな……！」

フーゴのいる場所からこの階までは結構な距離がある。
たとえ登りきったとしても、疲労したフーゴはアメリアにやられてしまうだろう。
＿＿彼の喉元から、ひゅう、と嫌な音が聞こえた。
まさか、彼が負った代償って＿＿

『もうやめなさい、フーゴ！私はいいからさっさと逃げろっ！』

思わず口をついて出た言葉。
その瞬間、彼が掴んでいたコンクリートが……崩れ落ちる。

「がっ……！？」

落下。
ここからでは見えない場所に落ちたため様子はわからないが、呻き声が聞こえることから気を失ってはいないことがわかる。

(今のは……私が『逃げて』って言ったからだ)

これ以上私の代償のせいで彼を不幸にするわけにはいけない。
なら、私にできることは。

『アメリア。……あなたはなんでフーゴと戦いたいの？』

愛せない人を、愛することだろう。