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2ヶ月前、突然、私の隣に現れたキム・ミンギュという同期は、とても遠い存在だった。

毎日パソコンに向かって、会議三昧のマーケティング部の私には、いつも誰かと話している笑顔で明るいミンギュが、1番遠くにいる人に思えた。

仕事も要領がよくて何でもそつなくこなせて、運動も出来ると噂のキムくん。

…それなのに、私は今、彼に抱きしめられている。

ミンギュのたまに香る甘い香水が、今まで以上に強く感じられて、だんだん顔が熱くなってきた。

「え」

驚きの声を上げたのはミンギュで、腕の力を少し弱めて私の顔を覗いていた。

「そんなに顔が赤くなってるとは思わなかった」

穴があったら入りたい。本当に恥ずかしい。人生で数えられるぐらいに上位だと思う。

「ふふ、可愛いじゃん」

サラサラと水が流れるように私の心に攻め込んでくる甘い言葉たちを、脳は処理しきれていない。

「可愛くない」

もう、そう返すのがやっとだ。余裕そうなミンギュも癪に障る。

「何にもないのに、そういう事するのは辞めて」

ようやく言えた、私の気持ち。ミンギュの顔を見ることは出来ない。皮肉なように、草原で寛ぐ雀の鳴き声が聞こえてくる。

「何にもなくないけど」

真剣なトーンで返された言葉に、驚いて顔を上げた。

それって、どういう意味なの。頭がパンクしそうだ。

ミンギュがテーブルに手を着いた。

「俺、別にどんな女の子とも美術館に行く訳じゃないし、…何とも思ってない子を、抱きしめたり、しないし、」

最初は堂々と言っていたくせに、途中で照れて言葉尻が萎んでいく。ようやくこの人も冷静になってきたようで、「ゴメン」と軽く自分の額を叩きながら呟いた。

「とにかく、俺がこんなことしちゃうのはAだけだから。そこは…信じて」

想像したこともなかった。ミンギュが、自分に何かを想っていること。

この世で起きることは無いと信じてやまなかったせいで、気持ちの整理ができない。

「取り敢えず、お昼ご飯食べる?」

お腹も空いて尚のことだ。バスケットに入ったサンドイッチを指さすと、ミンギュが困ったように笑みを浮かべる。

「…うん、そうしよ」




アイスアメリカーノは少しぬるくなっていたけれど、それでも美味しく感じる。

一時休戦と言うのか、ミンギュもいつもの様子でホットサンドを頬張っていた。

「これめっちゃうまい!」

相変わらず美味しいものを食べた時のミンギュは、目がキラキラしている。

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夏目(プロフ) - エルさん» エルさん、いつもいつも本当にありがとうございます(;;)一番試行錯誤した会社員ミンギュの現実感をお褒めいただけて胸がいっぱいです…!本当にいつも、私の伝えたいことや拘りを綺麗な文章にしてコメントを下さり、ありがとうございます!次作も頑張ります! (2021年10月16日 21時) (レス) id: e14acee8c3 (このIDを非表示/違反報告)
エル(プロフ) - まずはお疲れさまでした!繊細な感情のゆっくりとしたステキな描写が大好きだったので寂しい気持ちもあり、幸せな2人を見て満足な気持ちもあり^_^会社員のミンギュになんか現実感満載で←これ凄い 更に楽しめました!ありがとうございました^_^新作楽しみにしてます! (2021年10月16日 2時) (レス) id: 2a8565ccfe (このIDを非表示/違反報告)
夏目(プロフ) - あやちょるさん» あやちょる様、定期的にコメントしてくださりありがとうございました!そう言っていただけて、本当に嬉しいです。こちらこそ、素敵なコメントをありがとうございました(;;)次回作も頑張ります! (2021年10月15日 20時) (レス) id: e14acee8c3 (このIDを非表示/違反報告)
夏目(プロフ) - まるさん» コメントありがとうございます。最後まで楽しんでいただけてとても嬉しいです。私もまる様のコメントに安心して、心温まりました…次回作の応援までありがとうございます。これからも励んでまいります! (2021年10月15日 20時) (レス) id: e14acee8c3 (このIDを非表示/違反報告)
あやちょる(プロフ) - 最後までお疲れさまでした。更新が毎回楽しみな作品でしたので、終わってしまうのが寂しいですが…素敵な時間をありがとうございました!新作も楽しみに待ってます! (2021年10月15日 16時) (レス) @page50 id: 702326c54a (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:夏目 | 作成日時:2021年8月30日 7時

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