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疲れてる時に限って、肉体的にしんどいロケが回ってきたりするのはよくある事。
どういうわけか業界内であるあるになりつつあるその言い伝えはここでも例外ではなく。
｢いや〜びっしゃびしゃなったな｣
今日のロケは、水濡れ系やった。
撮影だったりで水に濡れることは多々ある。
ただこの系統のロケの何がしんどいって、長くなること。
衣装を着替えたりメイク直しがあったり機材を変えたりで結構時間を取られがち。
で、俺は大丈夫なんですけど。
｢……ん、あ、寝てもーた｣
朝早かった(……だけでないであろう)神ちゃんは、空き時間の様々な行動に疲れが滲み始めている。
｢神ちゃん、こっち来てや。そこで寝たら狭いやろ？｣
｢だいじょぶ｣
ハリのある声質も今はいくらか覇気がない。
あと少し頑張ったらロケは終わる。
でも、目の前の彼の様子は、そのあと少しを繋ぎ止めていられるようには到底思えなくて。
｢ちょっとごめんな｣
｢んえ？あ、ちょ、のんちゃ｣
伏せがちな身体の傍に行き、首筋に手を伸ばす。
｢……なぁ、やっぱり熱あるやんな？神ちゃん｣
触れた先はこの上なく熱いのに、ちっとも汗かいてへん。
典型的に、発熱している人の感触やった。
｢……あとちょっとやから｣
否定が飛んでこないあたり、本人も恐らく限界なんだろうと察する。
ただそれでもロケは完遂したいようで。
｢気付いた以上ほんまは今すぐにでも止めたいけど、スケジュール的にも今日しかないもんなぁ……｣
有難いことに互いに忙しくさせてもらってる。
だからこそ、ひとつひとつの仕事に穴は開けたくないし遅れも取りたくない。
その気持ちは痛いほど分かる。
｢分かった。最後までいこ。でも終わったらすぐマネさんに伝えて帰るんやで？｣
｢おん、ありがと｣
だから、釘を刺した上で続ける選択をした。
彼のプロ意識には圧倒的な信頼がある。
ただ、ひとたびそのメイクを落としたら紅潮した姿が見えるのかと思うと俺が辛くなって。
ほんまは嫌や、今すぐにでも休ませてあげたいのに。
そうしてロケは再開してく。
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作者名：岡本まどか | 作成日時：2023年7月10日 11時
