取り零した熱 - 緑桃 - ページ1
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｢おはよ｣
その異変に気付いたのは、顔を合わせてすぐのこと。
｢元気ないやん、神ちゃん｣
｢個人仕事が朝早かってん。MV撮影てっぺんまでいった後やったからちょっとキツくて｣
特段ハイテンションなタイプでもないけれど、今日のテンションの低さはいつもとちょっと違って。
｢ほんまにそれだけ？｣
｢おん｣
彼もプロであり、大人である。
だから、仕事をするために過干渉はしないつもり。
でも、メンバーとしてはもちろん心配で。
｢神ちゃん隠しがちやからな〜。なんかある前に言うてや？｣
｢大丈夫やって。てかのんちゃんも最近忙しいやろ？｣
｢今は神ちゃんの話をしてるの｣
｢ドラマの撮影中やんか｣
｢神ちゃんの方がいくらか忙しいやろ。舞台稽古やってライブの振り付け考えてやし｣
｢まあ自分でやりたい言うたもんやし……｣
こんなふうにすぐ自分を追い込んでいく神ちゃんのことが、俺は正直少し怖くもなる。
もちろんメンバーとして、人として、その行為は尊敬できる。
ただつい行き過ぎる時があって、気付いた時にはちょっと身体壊したりしてて。
イキスギさんやねん、神ちゃんは。
｢セッティング大丈夫です！カメラ回します！｣
｢ありがとうございますー！ほな行こ、のんちゃん｣
｢ん｣
気持ちをオンに切り替えて、視聴者さんには全然何も分からないであろうテンション感。
でも俺は何となく気付いている。
前の現場があったからメイクをしているわけやけど、そのメイクが若干濃い気がする。
目元がいつもより少しだけ赤い気がする。
話し方が少しだけゆったりな気がする。
今日の神ちゃん、ちょっと熱ある気がする。
まぁ、真実は本人のみぞ知るといったところ。
ロケ中にその違和感が表に出ないように陰ながらフォローしようかなとかなんとか。
｢のんちゃん、俺の顔になんかついてる？｣
あ。
つい気にして見すぎたかもしれない。
｢いや、なんもない｣
｢んー？なによー？｣
やっぱり、ちょっとぽわぽわしてるような気がする。
知らん間に倒れたりせんとええけど。
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作者名：岡本まどか | 作成日時：2023年7月10日 11時
