アホ犬と男装御主人様！！ (ページ49)

今日:17 hit、昨日:0 hit、合計:15,673 hit

《第四十八匹》試合ページ49

順調に試合は進み、勝ち残ったのは、うちの道場の中でもやり手と評価のある、東(あずま)という男だ。
　うちの道場では珍しい茶髪の、似非紳士野郎……だったよな？名門と言われる道場にしては、確かに髪を染めるとかいった事には緩いが、そんな人はほとんどいない。……実力がなければ叩き出されるから。

　そんな事をする暇があるなら、御家の為に日々精進し、家の名を上げようと意気込む奴が多い。
　まぁ、確かこの男は親戚で、実力もあったから、余裕があるんだろう。

「では、Aさん。貴方が勝負を決めて良いですよ？」

　紳士崩れが。くたばれ。
　って言葉は、思いついたが、言うのもダルいから言わない。

「あー、じゃあ……」

　殴り合い。と言おうとして、止める。
　ふと、こいつの本職で打ち負かしてやった方が気持ちいいなと思いついてしまった。
　確か、こいつの本職は剣道。4段はあったはずだ。となれば、実力者。相手に不足はない。

　元々、こいつ……東の事は嫌いだった。
　親戚会があると、流石に俺も出なくてはいけなかったのもあり、渋々行ってた。

　その度に、しつこく付きまとってきたやつだ。
　一応俺も本家だからか、本家の俺に気に入られようという魂胆は見えていたし、何より、その紳士を意識した物言いが気に入らなかった。『一応仲良くしとけよ、あれでもあいつの親───康仁(やすひと)さんは、実力もあるし、人格者だって言われてて、周りからも認められてるし。何より、あいつ自身実力がある』と兄貴は言っていたが、かく言う兄貴も嫌っていたが。

「剣道、で」

　それに東は「分かりました。どうか、正々堂々戦いましょう」と答えたのを聞いてなぜか虫酸が走る。

「ですが、貴方を貰うために私は手加減出来ません事を、お許し下さい」
「手加減は元よりいらない。正々堂々、勝負するんだろ？」
「あぁ、そうでしたね。では」

　微笑んで、頷くと。東はスッと目を閉じ、竹刀を手にする。いつもの癖か、黙祷をして、目を開いた瞬間。

「いざ、尋常にっ……！」

　先程の優男を連想させる瞳からは考えられないほど鋭く、研ぎ澄まされた真剣の刀のような眼。成る程、確かに実力者なのだろう、死合いにでも行くのかと言うほどのその眼力は、人一人動揺せず殺れるだけの冷静さがあった。