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視点:冷泉A
ほんの気まぐれと言うべきか。
それとも、“運命”なんて現実味の無い現象と言うべきか。
私を排斥しようとする空気に耐えかねて顧問に退部届を叩き付けた後に足を向けたのは、何故か縁もゆかりもない排球部の体育館だった。
「……そういえば、入学式のガイダンスで紹介されていたな……」
まだ誰も来ていなかったのか、少し覗いても誰も見当たらない。これ幸いと人目に付きにくいギャラリーに移動し、適当な場所に腰を下ろしてみる。
不思議と、嫌な感覚はしなかった。
湿布の鼻に残るような匂い、
目の前の柵に残っている段幕でもかけてあったかのような日焼け跡、
腹の底から何かを引き摺り出されるような熱気。
熱にあてられた、というのはこういうことなのだろうか。
何かをやりたいという衝動をぶつけるように、私はさっきまでやっていた研究ノートにペンを走らせた。
瞬きすら忘れるような集中から私を呼び戻したのは、風に捲られて手元から落ちてしまったルーズリーフ。くしゅん、と小さなくしゃみが一つ飛び出した。
下に落ちないように慌てて紙を拾い集めていると、誰かがこっちに来るのが見えた。目線だけ動かして相手を見てみると、どうやら手伝ってくれるらしい。
「ん？…あぁ、拾ってくれたのか、そこに置いておいてくれ。
できるだけ邪魔はしないようにするよ。」
邪魔にならないようさっさと集めていると、残りの束が全て一箇所に集められていた。勝ち誇ったかのような顔をしているそいつの思考はよく分からなかったが、短く感謝の言葉を伝えておく。
またルーズリーフと睨めっこをしているうちにそいつは居なくなっていて、代わりに下からボールが床に叩きつけられる音が無数に聞こえてくる。
この音が止むまではここに居ようと決め、もう一度思考の渦に飛び込んだ。
「おーい」
と呼ばれて顔を上げると辺りはもう夕日で真っ赤に染まっていた。いつの間に、と思いながらも鞄に荷物を入れて帰る支度をする。
梯子を素早く降りると、銀髪の上級生らしき人物が私に話しかけてきた。
まぁ、部員でもない人間がギャラリーに居座ってたら気にもなるか。そう思って軽く自己紹介を済ませ、適当な雑談を始める。
自分にとって不名誉なことを話すのは気恥ずかしいが、隠しているわけでもない。
思い出すのでさえ嫌になる記憶をそのまま吐き出していると、急に叱咤が飛んできた。
”何故言い返さなかったのか“、と。
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森谷きのこ(プロフ) - ひよりさん» コメントありがとうございます。気を付けているところやこだわっているところを褒めていただき、嬉しい限りです。細々とではありますが続けていくので、これからもよろしくお願いします。 (4月4日 22時) (
レス) id: 8dba170153 (このIDを非表示/違反報告)
ひより(プロフ) - 文章の構成、 情景や感情の表現、言葉選び諸々凄い丁寧で素敵でこの作品に惹かれました！楽しく読ませてもらってます！ (3月31日 1時) (レス) @page19 id: 67c39a707a (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：森谷きのこ | 作成日時：2024年2月26日 10時
